零の空白〜The Blank of ZERO〜
登場人物
志島裕奈(シジマ ユウナ) :主人公。JK。サッカー部のマネージャー。(高校生/小学生)
三谷智花(ミツヤ トモカ) :秀才。裕奈の親友。同上。(高校生/小学生)
リンドウ・C・ミサト :裕奈に対して友好的な未来人。TSCC所属。
(TSCC/Time and Space Control Committee)
クジョウ・K・レイア :リンドウとは違う未来から来ているらしい。
鳥居龍輝(トリイ リュウキ) :裕奈・智花の幼馴染。サッカー部。(高校生/小学生)
灰島昭次(ハイジマ ショウジ):謎の人物。空白世界で何故か活動していた。
弓場美樹(ユミバ ミキ) :裕奈たちのクラスの担任。地歴科担当。
この台本を読む前に
この台本は、作者が趣味で書いているものなので、理解しがたい部分が多いと思います。
また、この作品をよりよく理解してもらうため、「台本補足」に目を通してください。
さらに、慈悲や救いの類はありません。まったく。
序幕 学校:4限終わり間近、教室にて
(チャイムが鳴る)
弓場 「はい!日直、号令!」
鳥居 「起立、・・気をつけ、礼」
弓場以外「ありがとーございました!」
弓場 「鳥居君、日誌は後で社研にもってきてねー」
鳥居 「了解デース」
(弓場、はける)
三谷 「ねえ裕奈、今日は天気いいし、屋上行かない?」
志島 「いいね!・・でも、屋上混んでるんじゃないの?」
三谷 「大丈夫!もうすぐ春休み、今日から午前日課だし、人もそんなにいないって!」
志島 「そういえばそっか」
三谷 「でしょ?ま、全くいないってわけでもないと思うから、早く行こう?」
志島 「あ、ごめん、あたしきょう購買行くんだ。
先行って場所とっててもらえるかな?」
三谷 「オッケー。じゃあ、途中まで一緒に行こうか。」
志島 「うん!」
(二人、はける)
間。
鳥居 「ふう。今日一日の感想の欄を全部埋めるのって大変なんだぜ?
教師ってのはそれを分かっててああいうのかねぇ?・・・さてと、
とりあえず社研行って、そのあとどっかで弁当にするか。」
(ここで、舞台を薄暗くして欲しい)
(鳥居、扉を開けようとするが、開かない)
鳥居 「どういうことだ?また林とか森山のしわざか?
あいつらタチわるいからな。」
(鳥居、椅子を引こうとするが、動かない)
(鳥居、たじろく)
鳥居 「・・・どういうことだよ・・・?」
暗転。
1幕 その数分後 学校:放課後、屋上にて
(志島が駆け込んでくる)
三谷 「遅いよー!」
志島 「ごめんごめん、おまたせ。」
(と、言いながらパンの包みを開ける。三谷も弁当箱を開ける。)
二人 「いただきまーす」
(ここで舞台を薄暗くして欲しい。同時に三谷の動きが止まる。)
(志島も、パンが動かない。)
志島 「あれっ?」
(リンドウ、登場)
リンドウ「・・・志島裕奈さんですね?」
志島 「ど、どなたですか!?いや、誰でもいい、
智花が、私の友達が動かないんです!」
リンドウ「その件も含めて、お話したいことがあります。
ここでは少し問題があるので、ついて来ていただけますか?」
志島 「待って!あなたは一体何者?」
リンドウ「私は、リンドウ・C・ミサト。
ここより300年ほど未来からやってきました。」
志島 「・・・未来から?あなた正気?」
リンドウ「私は至って正気です。それより、この現状を見て、
何かおかしいと思いませんか?」
志島 「何かもなにも、パンも智花も動かないし・・・
(空を見上げる)空もなんだか変だし。」
リンドウ「その通り。ここはおそらく、時間と時間の狭間、正確に言えば
12:47:26と12:47:27の間にある、『実在しない時間』だと思われます。」
志島 「実在しない・・・?」
リンドウ「そうです。時間が正常に流れ出せば
我々はここで体験したことを忘れてしまっているのでしょう。」
志島 「ううんと、よくわかんないんだけど、さっきから歯切れが悪いわね。
あなたは未来人なんでしょ?過去に起こったことを
なんでも知ってるんじゃないの?」
リンドウ「先ほども言った通り、ここは実在しません。我々にとっても予想外でした。」
志島 「えーっと、つまりここは現実の世界じゃないって事?」
リンドウ「そうですね。その解釈でも間違ってはいませんが・・・。より正確に言うなら、
世界軸的に実在しなかった時空、とでもいいましょうか。」
志島 「セカイジク?」
リンドウ「世界の流れの方向性、ある一定の流れのようなものです。水門を想像してみて下さい。
門を閉じれば水の流れは止まります。今は時間の門が閉まった状態なんです。」
志島 「大体わかったけど、それなら未来人が私に何の用?」
リンドウ「この異空間の発生は予想外ではありましたが、犯人に関してはある程度目星がついてます。
この予想が正しければ、あなたにある程度協力していただかなければならないでしょう。」
志島とリンドウ、歩き出す。(はける)
照明F,O
暗転直前に三谷が立ち上がり、志島たちと逆にはける
間。
(歩きながら、周囲を見回して)
志島 「不思議な感じ・・・(照明F,I)みんな、固まったまま。」
リンドウ「ええ、ここではごく限られた者しか活動することは出来ません。
大部分の生物にとっては、ここは「わずか1秒」でしかありませんから」
志島 「その、ごく限られたもの、って具体的にはどんな人たち?」
リンドウ「・・・まあ、あなたになら教えても構わないでしょうが、
まず、私のように時間を超越して活動できるもの。そして・・・」
リンドウ「犯人に、ごく近しいもの」
(ダンスタイミングA 候補曲:「ヒカリノテクノロジー」)
2幕 ほぼ同時刻 教室
(鳥居、ドアと格闘している)
鳥居 「チクショウ、おい、開けろ! 開けろって!」
(灰島、登場)
灰島 「鳥居龍輝だな」
鳥居 「誰だ!?」
灰島 「おまえに名乗る必要はない」
鳥居 「どっから入ってきた!」
灰島 「それに答える必要もない。・・・ついて来てもらうぞ」
鳥居 「はあ?なんであんたなんかに・・・」
(灰島、拳銃を取り出して鳥居に向ける)
(鳥居、ホールド・アップ)
灰島 「ついて来い。いいな」
鳥居 「あ、ああ。けど、『あんた』じゃ呼びづらい。
何か、肩書きでもいいから教えてくれないか?」
灰島 「灰島、とでも呼ぶがいいだろう」
鳥居 「で、俺を連れて行って何をするんだ?」
灰島 「無駄口をたたくな」
(灰島、無造作に扉を開けて出て行く。鳥居もそれに従う)
(入れ替わりに、リンドウと志島が入ってくる。)
志島 「・・・」
リンドウ「あなたの気持ちはわかります。しかし、これは動かしがたい事実です・・・」
志島 「誰なのかな・・・家族?友達?」
リンドウ「血縁者ということはないでしょう。過去の人物と結婚するなど、歴史の改ざんに他なりません。
我々が気づかないはずもありません」
志島 「じゃあ、友達?」
リンドウ「そうだと思います。ただし、友人といっても並みの友人ではなく、
あなたたちの言葉で言うなら『親友』と呼べるほどに近しい人物であるはずです。」
志島 (悲しみを抑えきれない)
リンドウ(悲痛な表情)
志島 「そんなのっ、そんなの智花しかいないじゃん・・・!」
リンドウ「ええ、三谷智花が、犯人の第一候補です」
(灰島、鳥居、登場)
灰島 「はっ、ずいぶん白々しいことだ」
リンドウ「・・・何をしにきたのですか」
志島 「誰!? ・・・鳥居君!」
灰島 「安心しろ。別に危害を加えるつもりはない。
・・・何をしに?俺の行動に意味などないと、お前も知っているだろう」
リンドウ「まあ、手間が省けたことは間違いありません。
お二人とも、私に三谷さんのことについて、教えていただけませんか?」
鳥居 「いいのか?」
灰島 「勝手にしろ」
志島 「・・・初めて智花に会ったのは、入学式のとき。一人でいた私に、智花が話しかけてくれたの・・・」
(ダンスタイミングB 候補曲:「ヒカリノテクノロジー」)
3幕 回想シーン1 入学式の日
(教室のざわめき)
(志島、一人で荷物をまとめている)
(リンドウは舞台端で二人を見ている)
三谷 「ねえ」
志島 「はいっ(緊張した声で)」
三谷 「あはは、そんなに硬くならないでよ。あなたも、中学のときの友達と離れちゃったの?」
志島 (うなずく)
三谷 「じゃあ、私と同じだね!名前、聞いてもいい?」
志島 「志島、裕奈です」
三谷 「ユウナさん、ね。わたしは三谷智花。これからよろしく!」
志島 「よ、よろしくおねがいしますっ!」
(志島、リンドウのほうに振り返って)
志島 「これが、私たちの出会い。だと思ってたんだけど・・・」
(鳥居、登場)
鳥居 「実は、二人が会ったのはこれが初めてってわけじゃなかったんだ」
志島 「そう。それがわかったのは、その次の日」
(回想に戻る)
三谷 「ユウナさんはもう部活とか決めた?」
志島 「ううん、まだ」
三谷 「私、サッカー部のマネージャーやろうと思ってるんだけど、一緒に行かない?
オリエンテーションのときの先輩がカッコよかったじゃん?」
志島 「そうだね。いいよ、行こう」
(鳥居、ボールを持って登場)
鳥居 「あれ、シマにハナじゃないか?」
二人 「えっ?」
鳥居 「なんだ、忘れたのか?ほら、小学校のときの」
二人 「あっ、もしかして・・・”変わり身の”リュ−くん!?」
鳥居 「なんだ、”変わり身”って?」
志島 「窓ガラス割るたびにダッシュで逃げて、無実の男子を犠牲にし続けた・・」
鳥居 「やってねえ!そんなことは1回しかやってねえ。
それ言ったら、おまえだって”看板娘”じゃねえか。」
三谷 「何、”看板娘”って?」
鳥居 「クラスで風邪がはやって休みが出たときに、
こいつ、給食5人分くらい平らげてたじゃん」
志島 「そんなに食べてないよ、3人分だよ」
三谷 「あはは、そんなこともあったねえ」
志島 「え?・・・ってことは、三谷さんって・・・トモちゃん!?」
三谷 「ユウちゃんだよね!?なんか見覚えある気はしてたんだけど」
(リンドウに向かって)
志島 「というわけで、私たち3人は、小学校のときの友達だったの」
リンドウ「やはり、そうでしたか」
志島・鳥居「?」
リンドウ「これを見てみてください」
(リンドウ、6枚の紙を取り出す)
志島 「これは・・・?」
リンドウ「あなたの小学生時代の学級連絡網です。」
志島 「これがどうしたの?」
(鳥居、連絡網を覗き込んで)
鳥居 「あれ・・?」
志島 「どうしたの?」
リンドウ「気づいたようですね」
鳥居 「これ、学年委員の家庭以外は名前順だよな」
志島 「相田、赤井、井村・・・そうみたいだね」
鳥居 「ここだよ。三滝、三井、村田」
志島 「あれ、『三谷』がない?」
(灰島、登場)
灰島 「その通りだ。『三谷智花』なる児童は、その学級には存在しなかった」
鳥居 「どういうことだ!?」
灰島 「どういうことも何も、言葉通りの意味だ」
志島 「あ、でも、このときは同じクラスじゃなかったかも・・・」
灰島 「3年2組28番、三谷智花。お前たちが、彼女と始めて会った、
と記憶しているときの彼女の出席番号だ。違うとは言わせない」
志島 「そんな・・・」
(灰島、拳銃を志島に向ける)
リンドウ「!」
(リンドウ、志島、鳥居、凍りつく)
(クジョウ、登場)
灰島 「チッ(拳銃をおろす)」
クジョウ「まだわからないの?あなたたちは、『虚偽』を『真実』に摩り替えられたのよ」
リンドウ「クジョウさん・・・あなたまで・・・」
クジョウ「そうよ?何か悪い?ここはこの近辺の世界線においてもっとも大きな分岐ポイント。
我々の世界線が未来に優位性を確保する、またとない機会だわ」
志島 「ちょっと待って、わかんないよ。智花が存在しなかったとか、
キョギとかシンジツとか」
リンドウ「では、わかりやすく説明しましょう。あなたたちは、極めて強力な
記憶の改ざんを受けています」
二人 「!」
鳥居 「やめろ・・・やめてくれ・・・」
クジョウ「補足するなら、あなたたちの・・・」
志島 「いや!聞きたくない!」
(志島、耳を塞いで走って逃げる)
鳥居 「おい!シマ!」
(鳥居、後を追う。他もそれに続く)
(ダンスタイミングC 候補曲「Deflation World」)
4幕 回想シーン2 小学生時代&高校の入学式の日
(志島、ベンチに腰掛けて、独り言)
志島 「あの時も、智花だった。智花が、私に話しかけてくれた。それは、嘘?
まぼろし?現実にはなかったこと?嫌、そんなの嫌。嘘だよね?
嘘だって言って、ねえ、嘘だって言ってよ、智花・・・」
(舞台の袖から)
ユウナ 「嘘だよねトモちゃん!わたしたち、ずっと一緒にいるって、
約束したよね?嘘だって言ってよトモちゃん!」
トモカ 「ごめんユウちゃん、わたしだって離れたくなかったよ。
でも、しかたがないの・・・」
ユウナ 「もういい!トモちゃんのうそつき!」
トモカ 「!」
志島 「そう。私はあの時、智花を傷つけた。高校生になって再会したとき、
智花はそれを笑って許してくれた。智花。わたしの大切な友達。」
(三谷、登場)
三谷 「ユウちゃんだよね!?なんか見覚えある気はしてたんだけど」
志島 「トモちゃん・・・わたし・・・」
三谷 「?」
志島 「あの時、わたし、トモちゃんにひどいこと言っちゃって・・・」
三谷 「いいよ。気にしないで。わたしたち、けんかしても次の日には絶対仲直りしたでしょ?」
志島 「トモちゃん・・・」
三谷 「仲直りと再会のしるしにさ、これからわたしのこと、『智花』って呼んでくれないかな?」
志島 「(少し笑って)ありがと、智花・・・」
三谷 「いいよ、裕奈。それにしてもわたしたち、結構けんかしたよね」
志島 「そうだね。それも原因はつまらないことばっかり」
(トモカ、ユウナ、登場)
(三谷と志島は座ったまま、会話を続ける)
ユウナ 「トモちゃん、遅いっ!」
トモカ 「ごめん、うちにおじさんが来てて・・・」
ユウナ 「おじさんとわたしと、どっちがだいじなの!?」
トモカ 「ユウちゃん、ほんとにごめん!」
ユウナ 「もう、トモちゃんなんて知らないっ!ふんっ!」
志島 「あったあった」
三谷 「裕奈ったら本気で怒るんだもん」
志島 「謝ったじゃ〜ん」
三谷 「あとは・・・」
リュウキ「ごめん、泣くなって」
トモカ (泣いている)
ユウナ 「リューくん、トモちゃんに何したの!?」
リュウキ「ボールぶつけちゃったんだよ、謝ってるんだけど、泣き止まなくって」
ユウナ 「サイテー!女の子に何てことするの!?」
リュウキ「だからわざとじゃないって!」
ユウナ 「こんなやつほっといて、行こう、トモちゃん」
トモカ (泣きながら頷く)
リュウキ「あっ・・・おい!」
三谷 「あの後、ちゃんと仲直りはしたの?」
志島 「してない」
三谷 「やっぱり〜。ちゃんと話をしに行くの大変だったんだよ?」
志島 「えっ?」
三谷 「やっぱり知らなかったんだ。あの後わたし、
『ユウちゃんもついカッとなっちゃっただけだから、気にしないで』
ってリューくんのところに言いにいったんだよ?」
志島 「そうだったんだ・・・なんか、ごめんね」
三谷 「謝らないでよ。いつまでもめそめそしてたわたしも悪いんだからさ。
わたしがしたのは、その埋め合わせだよ」
志島 「・・・智花には、かなわないなあ」
三谷 「?」
志島 「頭がいいし、やさしいし、積極的だし・・・わたしには、とても真似できないや」
三谷 「ありがと、裕奈。でも、わたしからしてみたら裕奈がうらやましい。
いつだって、自分より人のことを考えてるんだもん」
志島 「そんなことないよ!わたしがそんな人だったら、
待ち合わせに遅れた位であんなに怒らないって」
三谷 「あ、それもそうか」
志島 「え、フォローしてくれないの!?」
(二人、笑い出す。)
(三谷、急に真剣になって)
三谷 「ねえ、裕奈」
志島 「どうしたの、智花、改まっちゃって」
三谷 「・・・わたしたち、ずっと『友達』でいようね」
志島 「あたりまえじゃん!」
照明 F,O
(ダンスタイミングD 候補曲:「ペルソナ」)
5幕 それぞれの思惑
灰島 「くそっ・・・やつら、どこへ行きやがった」
リンドウ「まあ、慌てることはありません。時間はあります」
灰島 「よくもまあ、ぬけぬけとデタラメを並べられたものだ」
リンドウ「デタラメ?」
灰島 「しらばっくれるな。少しでも頭の回るやつなら、気づいておかしくないことだ」
リンドウ「別にいいではないですか。わたしは目的のために行動しています。
この時代の言葉で言うなら『嘘も方便』ですよ」
灰島 「目的、ねえ」
リンドウ 「これ以上あなたと話すこともないでしょう。
向こうより先に彼女を探さなくてはなりませんので」
(リンドウ、はける)
灰島 「・・・結末が解ってしまう、ってのも悲しいことだな。
こんな才能、捨てられるなら捨てちまいたい。」
(灰島、ため息をひとつ吐いて)
灰島 「少しだけ、やつに同情するな」
(灰島、はける)
クジョウ「っ、どこにいったのかしら」
クジョウ「彼女が向こうに拘束されれば、
もうこちらに逆転の機会はほとんどない。
絶対に、向こうより先に見つけなきゃ・・・」
鳥居 「あ、あんたは!」
クジョウ「いいところで会ったわ。志島さんを知らないかしら?」
鳥居 「知ってたらこんなに探しまわらねえ!あんたこそ知らないのかよ」
クジョウ「その台詞、そっくりお返しするわ。
・・・まあ、こんなところで会ったのも、何かの縁。いいことを教えてあげる」
鳥居 「・・・なんだよ」
クジョウ「リンドウさんと、灰島さん。あの二人、どう思う?」
鳥居 「あの未来人は、よく言えば、誠実。悪く言えば、任務人間、って感じだな。
で、あの男は信用ならん。もちろん、あんたもだ」
クジョウ「まあまあ、そんなこと言わずに。」
鳥居 「で、何が言いたい」
クジョウ「あなたは、そう感じたのね。確かに、そう感じられることは否定しないわ。
でも、それはあくまで表向き。彼らが裏で何を考えているか、考えてみたかしら?」
鳥居 「そんなことしてる場合かよ!早くシマを探さないと・・・!」
クジョウ「ふふっ・・・まあ、覚えておいて。余裕があったら、考えてみるといいわ」
(クジョウ、はける)
鳥居 「なんだったんだ・・・おっと、いけねえ。シマーっ!どこだー!」
(鳥居、はける)
(ダンスタイミングE 候補曲「閃光カタストロフ」「Deflation World」)
6幕 それぞれの思惑2
(志島がベンチに座っている)
志島 「もういやだ、何も考えたくない、何も知りたくない」
(そこへ、鳥居が走ってくる)
鳥居 「いた、シマ!」
志島 「リューくん・・」
鳥居 「!」
志島 「あっ、ごめん」
鳥居 「いや、別に謝んなって。その呼び方で呼ばれるのも、
久しぶりだと思ったんでね」
志島 「・・・そうだね」
鳥居 「・・・なあ、いたよな?ハナは、ちゃんと小学生のころから、俺たちの前にいたよな?」
志島 「いた、と思う・・・絶対。たぶん。きっと」
鳥居 「だんだん自信がなくなってくるよな。
いくら奴らが他人でも、あそこまで自信を持って迫られるとな・・・」
志島 「・・・あたしたちが初めて会ったのは、いつだっけ」
鳥居 「小3のとき、だな。たまたま、家が近所だってわかって、よく遊ぶようになったんだった」
(ユウナ、トモカ、リュウキ、ランドセルを背負って登場)
(志島と鳥居は座ったまま話し続ける)
リュウキ「あれ、志島さん?家、こっちだったんだ」
ユウナ 「だれ・・・?」
リュウキ「今年、同じクラスになった鳥居だよ」
トモカ 「あれ、志島さんと鳥居くん。二人とも、帰り道こっちなの?」
ユウナ 「あ、えっと、三谷、さん・・・」
トモカ 「そんな、よそよそしくしないでよ」
(トモカはユウナの手を握って)
トモカ 「わたしは、三谷、智花。三つの谷に、叡智の花と書いて、三谷智花」
二人 「えっち!?」
トモカ 「え・い・ち!優れた知識、って意味なんだって」
リュウキ「・・・難しいな・・・ハナでいい?」
ユウナ 「短くしすぎじゃない!?」
リュウキ「あ、僕は鳥居、龍輝。鳥が居る、輝く龍と書いて、鳥居龍輝。よろしく、ハナちゃん」
トモカ 「ハナでいいよ」
リュウキ「じゃ、よろしく、ハナ」
ユウナ 「ずるいずるい、二人ばっかり仲良くしちゃ」
リュウキ「じゃ、志島さんも自己紹介しなよ」
ユウナ 「えっと、志島、裕奈、です」
志島 「こんなにはっきり思い出せるのに・・・」
鳥居 「・・・でも確かに、8年前の記憶としては、はっきりしすぎてる気もする・・・」
志島 「鳥居君までそんなこと言うの・・・!?」
鳥居 「あ、ごめん!そんなつもりじゃなかったんだ」
(灰島、登場)
灰島 「なかなかわかってきたじゃないか」
暗転。
(リンドウが携帯を使っている)
リンドウ「ええ、ええ、今のところは。彼女が逃げてしまったのは想定のうちです。
そちら側での解析は進んでいますか?・・・まだ、不足ですか。
・・・わかりました。まだもうすこし、ターゲットを泳がせる方向で。はい。了解です」
(リンドウ、はける。クジョウ、登場)
クジョウ「あと、すこし・・・か。こちらにはもう一刻も猶予がない、ということかしら。
仕方ない、ここは彼らにも助力を仰ぐしか、手立てはないかしら・・・」
(クジョウ、携帯を取り出す)
クジョウ「こちらクジョウ・K・レイア。応援を要請します。現時点での状況を鑑みるに、
わたし一人では不足と判断。他作戦に出動中の各員においても、
『世界線優位性獲得戦闘過去優先の原則』に則り、速やかに作戦を中断し、
応援に赴いてください。繰り返します、こちらクジョウ・・・」
暗転。
(一人ずつ台詞を言ってははけていく)
鳥居 「誰の言葉を信じればいいのかわからない。どいつもこいつも信用ならない。
こうなったら、逃げるしかないじゃないか。この謎空間がタイムリミットで消えるようなもの
なのかどうかはわからない。でも、それ以外に、俺たちに出来ることはなかった」
灰島 「この空間が発生したとき、俺はかすかな望みを抱いた。
この空間なら、俺の能力も及ばないんじゃないか、と。
結果的にはそれは誤りで、やっぱり俺には先が読めてしまう。
ならば、その規定路線へ向かうように、手を尽くしてやろうじゃないか」
リンドウ「目的の成就まで後一歩。このまま行けば、未来は正常に動くでしょう。
わたしたちの世界線が正しいことは規定事項。その維持のためなら、
目的は手段を正当化する。彼女には、この時代に生きてもらわなければなりません」
クジョウ「やつらの思うとおりになどさせるものですか。いざとなったら、彼女を殺してでも止めるつもりよ。
たしかに、時間は一度向こうに流れた。世界は一度向こうを選んだ。
でも、やつらはそれを盾に公然と時空犯罪を続けてきた。これ以上、勝手なことはさせない」
志島 「いろんな人が、わたしの知らない智花を語る。
そんなのいや。直接智花に会って確かめる。わたしはそう決めた。
あの人たちに見つからないように、学校へ戻らなきゃ!」
(鳥居、志島の手を引いて現れる)
鳥居 「こっちだ!」
志島 「手を引かれて走る。こんなの、いつ振りだろう?
そういえば、小学校のときの鬼ごっこも、リュー君に助けてもらってたっけ。
あっと、こんなこと考えてる場合じゃない。・・・リューくん、足、速くなったなぁ・・・」
鳥居 「走れ。逃げろ。逃げまくれ。そんな言葉を思い浮かべながら、走り続ける。
ひさしぶりだな、とも思う。ほかのこと考えてる余裕なんて無いはずなのに。
そういえば、周りには他にも女子が居たはずなのに、こいつのことばかり見てた気がする。
やっぱり、俺は、こいつのことが・・・。いけねえ、気を散らすな。逃げることに集中しろ」
手下 「いた、いましたよ!」(CV:弓場)
志島 「どうするの!?」
鳥居 「・・・こっちだ!」
(二人、はける。灰島、二人を追って登場)
灰島 「残念だが、ここでつかまってもらっては困るんでな」
(灰島、拳銃を抜いて、撃つ)
(SE:銃声)
(灰島、はける)
(志島と鳥居、息を切らせながら登場)
(SE:銃声)
二人 「!」
志島 「・・・うそ」
鳥居 「まじかよ」
志島 「リューくん・・・」
鳥居 「あれ・・・?」
志島 「どうしたの?」
鳥居 「おれ、この空間に入ったときに、教室のドアが開かなくなって、閉じ込められたんだ」
志島 「あ、わたしも、食べようとしたパンが動かなくなったんだ」
鳥居 「(うなづいて)だけど、あの男は普通にドアを開けて出て行った。
それだけじゃない。拳銃を構えてたってことは、それがこの空間でも使えると知ってたからだよな」
志島 「何が言いたいの・・?」
鳥居 「ここは、もしかしたら『時間が止まってる』だけの空間じゃないのかもしれない。
時間が止まってるにしても、ご都合主義が過ぎる」
志島 「じゃあ、ここは何なの?」
鳥居 「わからん!判断の材料が少なすぎるって」
手下 「いたぞ!こっちだ!」(CV:リュウキ)
鳥居 「くそっ、またか!」
(二人、はける)
リンドウ「・・・容赦はしませんよ?」
(SE:銃声)
志島 「リューくん!」
鳥居 「大丈夫だ、な?」
志島 「もうやだ・・・怖い!」(パニック)
鳥居 「お、おい!落ち着け!」
(灰島、登場)
灰島 「そうだ。落ち着け」
鳥居 「あんたは・・・!」
灰島 「まあ、そんな剣呑になるな。おれとしても、まだお前らに捕まってもらうわけには行かないんでね」
志島 「どういうこと?」
灰島 「説明してる時間は無い。いいか、今から向こうへ走れ。
そして、3つ目の角を左に曲がれ。俺の言うべきことはこれだけだ」
鳥居 「お前の言うことが信用できるわけ無いだろう!」
(リンドウ、舞台袖から)
リンドウ「探せ!こっちに来たのは間違いない!」
志島 「!リンドウさん・・・」
灰島 「信じないのも勝手だ。だが、お前たちにはもう迷っている時間は無いだろう」
鳥居 「・・くそっ!」
(鳥居、志島の手を引いてはける)
灰島 「そうだ。それでいい」
リンドウ「灰島さん・・・!」
灰島 「なんだ」
リンドウ「彼らは、どこへ行きました?」
灰島 「さあな。知らん。知っていたとしても、教えるわけにはいかない」
リンドウ「なぜです?」
灰島 「今、やつらに捕まってもらうわけには行かないからだ」
リンドウ「また、あなたの都合ですか」
灰島 「俺の都合とは心外だな。俺の都合は世界の意思、
いや世界の決定とイコールだと、お前も知っているだろう」
リンドウ「我々はオカルトには従いません。この世はいくつもの世界線に分岐し、
分岐に関係したものが、道筋を選択することによって、世界が確定する。
これは我々の研究が生み出した、紛れも無い真実です」
灰島 「さあ、それはどうかな。それすらも世界の意思に左右された結果なのだとしたら、
あんたたちの実験なんざ、露ほどの意味も無い」
リンドウ「・・・これ以上あなたと話していても時間の無駄です」
灰島 「こっちの台詞だ」
(リンドウ、はける。その後灰島もはける)
(1人ずつ台詞を言ってははけていく)
鳥居 「追っ手が迫る。どうやら、逃げ道はあの男の言ったルートしかないようだ。
学校へ戻るには遠回りだが、やつらに捕まるよりマシだ。
やつらが何人で来ようと、どんな技術を持ち出そうと、こいつを守って見せる。
それこそが、男子の役割ってもんだろ?」
灰島 「俺は誰にも味方しない。誰も俺には味方しない。
そして、俺にはすでにこの茶番劇のエンディングへの道筋が見えている。
さあ、ここで予定通り、規定通りに混乱を巻き起こす。
ゲームを引っ掻き回す。それが、道化に与えられた役割だろう」
リンドウ「彼女が逃走するのは予想していましたが、ここまで頑強に抵抗するのは想定外。
やつらに何か吹き込まれたのでしょうか?しかし、このまま引き下がれるわけもありません。
TSCC・・・時空管理委員会の名の下、現在の世界線を維持するのが、
我々の任務であり、役割です!」
クジョウ「この空間の残り存続時間がそう長くないことは、おおよそ察しがついている。
あんなやつらの命より、我々の任務のほうが優先すべきなのは自明の理。
こっちの世界線に与えられた最後のチャンス・・・絶対に掴み取る!
我々の役割こそ、正義の大道に他ならない!」
志島 「智花。あなたの話を聞かせて。わたしたち、ずっと友達でしょ?
あなたが何か悩んでいるなら、話し相手になってあげる。
あなたが悪いことをたくらんでいるなら、正しい道に連れ戻す。
それが、親友としての、役割だと思うから」
(ダンスタイミングF 候補曲「月に叢雲華に風」「閃光カタストロフ」)
7幕 灰島の撹乱
灰島 「なんとしても、やつらには学校、それも屋上までたどり着いてもらわねばならない。
あの連中は知らないだろうが、その前にやつらを捕らえてしまえば、困るのは自分だ。
世界としてもそれでは困るのだ。世界の維持と人の命。どっちが重要かなんて、
解りきったことだろ?しかも、こんな都合のいい空間の中でなら、なおさらだ」
手下 「くそっ、待て!」(CV:リュウキ)
灰島 「残念だが、ここで終わらせるわけにはいかない。・・・世界に維持のためにもな」
(灰島、発砲)
(手下、悲鳴を上げる)
灰島 「やつらがたどり着くまで、あと7分30秒、と」
クジョウ「何をするの!?」
灰島 「何を、だと?お前がお前の役割を果たすように、
俺も俺の役割を果たそうとしているだけだ」
クジョウ「っ・・・普通なら、これは単なる殺人にとどまらず、
過去時空においてのエージェントの殺害、つまり第一級の時空犯罪になるのよ!?」
灰島 「普通なら、な。お前も知っているだろう?」
クジョウ「・・・ええ」
灰島 「なら、何を言うべきことがある?」
クジョウ「・・・っ、覚えていなさい!」
(クジョウ、走り去る)
灰島 「さあ、もうひとつ、やっておくべきことはあるが・・・
そっちまで手は回りそうに無いな。それぐらいは、やつらに自分でやってもらおう」
(灰島、はける)
(リンドウ、携帯で通話しながら登場)
リンドウ「はい、想定外に時間はかかってしまいましたが、特に何事も無く作戦を完了できそうです。
・・・まさか自分から戻ってくるとは思っていませんでしたが。
・・・ええ、あの男もやつらも、我々を完全に阻止するには至らなかったようです。
はい、はい。・・・ひとつだけ伺いたいことが。あの男、我々にもやつらにも一切味方せず、
ただ状況を混乱させているだけのように思えるのですが・・・
なぜこの空間から排除しておかないのです?・・・無意味、ですか?
・・・では、それこそ殺害してでも排除しておくべきなのでは?
ええ、過去人一人程度埋め合わせるのにそう大きなエネルギーは要らないと思いますが・・・
え?・・・まさか、そんな人間が実在するとは・・・、了解しました。では、現状のまま任務を遂行します」
(リンドウ、携帯を仕舞って)
リンドウ「・・・あの男には、一体どんな結末が見えているというのでしょうか・・・?」
(リンドウ、はける)
鳥居と志島、息を切らせながら登場
鳥居 「やっとついたな・・・」
志島 「つ、疲れた・・・」
鳥居 「さあ、一休みしたら行くぞ」
志島 「・・・リューくん・・・」
鳥居 「どうした?」
志島 「わたしひとりで行っちゃ、だめかな」
鳥居 「どうしてだ?」
志島 「これは、わたしと智花の問題だから。・・・わたしたちで、解決したいの」
鳥居 「・・・わかった。」
(鳥居、笑顔を作って)
鳥居 「俺は、ここで待ってるよ」
志島 「・・・ありがと」
リンドウ、登場
鳥居 「おまえっ・・・!」
リンドウ「お疲れ様です。あなたは、これ以上この空間にいる必要はありません」
鳥居 「んなっ・・・」
リンドウ「さようなら」
SE:消滅
8幕 物語の結末
志島 「智花!・・・あれ、智花は・・・?」
灰島 「遅かったな」
志島 「!」
灰島 「そう警戒するな。お前に用があるのは俺じゃない」
志島 「どういうこと・・・?」
灰島 「まだ気が付いていなかったのか。あれほどヒントが転がっていたというのに」
志島 「何によ!」
灰島 「あの未来人がした説明は、半分は真実だが、半分は真っ赤な嘘だ。
そして、最も重要な部分。三谷智花が主犯であるのは間違いないが、
やつらの目的はその確保というわけではない」
志島 「じゃあ、リンドウさんたちの目的って・・・」
三谷 「あなたとわたしの、存在を入れ替えること」
志島 「智花!・・・何言ってるの!?」
灰島 「三谷智花が時空犯罪者であるのは、クジョウたちの世界線での話だ。
リンドウたちの世界線では、こいつはこの世界線の選択に貢献した英雄ということになっている。
・・・三谷智花と志島裕奈の存在を入れ替えることによって、
世界は大きな矛盾を抱えたままではあるが、この世界線のまま存続する」
志島 「大きな矛盾?」
灰島 「ここより300年程度先の世界において、三谷智花はリンドウたちの世界線を選択した。
しかし、その三谷智花は現代、つまりすでに確定した過去に存在することになる。
これは明らかな矛盾だが、三谷智花に手出しをすることは出来なくなる。よく考えたものだ」
志島 「じゃあ、わたしと智花は・・・?」
灰島 「本来は交わることのなかった、別々の時間の人間だ。
お前の持っている記憶は、リンドウたちの作り出した虚構に他ならない」
(志島、泣き崩れながら)
志島 「じゃあ、この空間は、本当はなんなの・・・?」
三谷 「リンドウさんたちが作り出した、実験空間。あなたの過去に、わたしという人物を加えて
記憶を引き出しやすくした上で、わたしの要素を取り除けば、
あなたの過去をある程度取り出すことが出来る。
そうでもしないと、あなたと完全に成り代わることは出来ないから」
灰島 「これでわかっただろう。未来人などと言う人種は、自分たちの目的のためなら、
過去人の命なんざいくらでも犠牲にするってことをな」
志島 「そんな・・・」
(リンドウ、登場)
リンドウ「そういうことです。・・・覚悟は出来ましたか?」
志島 「待って!わたしが一体何をしたって言うの!?」
リンドウ「何もしていません。あなたはごく普通の人間です。
だからこそ、この方に入れ替わっていただくには最適なんですよ」
志島 「いや!やめて!」
三谷 「ごめん裕奈。・・・短い間だったけど、本当の友達みたいで、楽しかった」
志島 「いや・・・」
リンドウ「それでは、さようなら。志島裕奈さん」
暗転。
志島 「いやーーーっ!」
9幕 エピローグ
三谷 「気をつけー、礼!」
全員 「ありがとうございましたー!」
弓場 「よし、このままホームルームいくよー。さて、明日から春休みになるわけだけど、
気を抜かないようにね〜?あとで後悔しても遅いんだよ?
後、荷物は全部持って帰ること!いいね?よし、志島さん、号令!」
三谷 「きりーつ、気をつけ、礼!」
全員 「一年間ありがとうございました!」
(弓場、はける)
鳥居 「なあ、シマ」
三谷 「なに?」
鳥居 「俺さ、英語がやばいんだよ。なんとか、春休み中に
二年の授業についていける程度にはなりたいんだけどさ」
(三谷、意地悪に)
三谷 「で?」
鳥居 「で?ってなんだよ」
三谷 「授業についていけるようになりたいから、何なの?」
鳥居 「・・・っ」
三谷 「人に物を頼むときは、どうするのかなぁ〜?」
鳥居 「・・・お願いです、英語を教えてください」
三谷 「よしよし、それでよし」
鳥居 「くっそー!」
(二人とも、荷物をまとめて出て行こうとする)
鳥居 「なあ、ハナ」
三谷 「なあに?」
鳥居 「・・・なんでもない」
暗転。
(クジョウ、声のみで)
クジョウ「居たぞ!追え!」
(志島、語り)
(途中から緞帳が下がり始める)
志島 「智花との思い出は全部幻だった。
それだけでもわたしに絶望を感じさせるには十分だった。
でも、それだけじゃ終わらなかった。
未来の世界では、わたしは”三谷智花”として生きていかなければいけないんだ。
何の知識も、何の技術もないわたしが、どうしてこんなところで生きていられるだろうか。
そうでなくても、常に誰かに追い掛け回されるというのに・・・
もういや!おねがい、誰か、誰かわたしを元の世界に戻して!
あの、懐かしい日々に戻して!誰か・・・(泣き崩れる)誰か、わたしを助けてよ!」
終幕。