L・C・L
CAST
女
有馬 海斗
中宮 舞花
少女(鈴音 愛)
警官
母親/有馬祖母
自衛隊員
1
女 「・・・なんてこと」
(女、しばらく呆然としている)
(女、客席に向かって)
女 「見るも無残、とはまさにこのことだった。今までに見慣れた渋谷の町はどこにもない。
見渡す限りの瓦礫の山が、そこにあった。そこにあるのは、悲哀、絶望、無力感」
少女 「うぅ・・・」
女 (はっとして)「大丈夫!?」
(女、瓦礫をどかして少女を助ける)
少女 「ありがとうございます」
女 「お父さんかお母さんは?」
少女 「家・・・」
女 「お家はどこ?」
少女 「晴海町・・・勝鬨橋の近く」
女 「・・・結構な距離はあるけど・・・一緒に帰る?」
少女 「え?」
女 「私も、そっちのほうに用事があるの。こんな状況だからどうなってるかわからないけど・・・
取り合えず行ってみないと」
少女 「う、うん・・・よろしく、おねがいします」
女 「もしも町が滅んでも、人は変わらず生き続ける」
少女 「もしも人が滅んでも、地球は変わらず回り続ける」
女 「ちっぽけなことかもしれない」
少女 「どうにもならないかもしれない」
女 「だけど、それしかできないから」
少女 「後悔したくないから」
二人 「私たちは、歩き続ける」
有馬 (しばらく周囲を見回しながら登場→中宮に気づく)
「舞花っ!」
中宮 「海斗っ!」
有馬 「よく・・・無事でいてくれたっ・・・」(半泣き)
中宮 「うん・・・さて、帰らなきゃね」
有馬 「ああ・・・!」
有馬 「これはゴールじゃない」
中宮 「これからがスタート」
有馬 「あまりに深い爪痕を、埋めていかなければいけない」
中宮 「壊れたものを、直さなきゃいけない」
有馬 「いつまでかかるかわからない」
中宮 「終わらないかもしれない」
有馬 「だけど、いつか元通りにするために」
中宮 「いつか笑って過ごすために」
二人 「もう一度、歩き始める」
2
女 「・・・これは・・・」
少女 「通れない・・・よね・・・」
女 「ごめんね、私が真っ直ぐ行こうって言ったから・・・」
少女 「だ、大丈夫だよ。それより、どうやって先へ行くの?」
女 「すこし北へ回って、青山から行きましょう。あそこは霊園だから、倒れてるビルも少ないはず」
少女 「わかった」
(二人、歩きながら)
女 「そういえば、あなたのお父さんとお母さんって、どんな人?」
少女「お父さんは、・・・船乗り、かな」
女 「漁師さん?」
少女 「ううん。この国を守るために、船で海を見張ってるんだ、って言ってた」
女 「すごいじゃなーい!!」
少女 「だけど、あんまり家に帰って来れないの。だけど、帰ってきたときはいっぱい遊んでくれる」
女 「いいお父さんだね」
少女 「お母さんは、とってもお料理が上手なの」
女 「・・・いい親御さんね。きっと、あなたのことを待ってくれてる」
少女 「うん!・・・あ、お姉さんは?」
女 「私が小さいときに、二人とも死んじゃった」
少女 「え・・・」
女 「だから、人の親御さんの話を聞くのが好き。
どんな人だったのかな、って私の親はどんな人だったのかな、って思えるから」
少女 「・・・きっと、すごい人だったと、思う」
女 「どうして?」
少女 「先生が言ってたの。みんなは、お父さんお母さんのいいところを受け継いで生まれて来るんだ、って。
お姉さんみたいな優しい人のお父さんお母さんなら、きっととっても優しい人だったと思う」
女 「・・・ありがとう」
少女 「あっ、お墓」
女 「・・・ねぇ、すこし、寄って行ってもいい?」
少女 「・・・うん」
(女、はける際にお守りを落とす)
中宮 「そっちは大丈夫だったの?」
有馬 「なんとかな。流石に埼玉のほうから歩いて帰るのは疲れたけど・・・
歩いたのは舞花も同じだしな。特別困った、ってことはなかったぞ。あ、腹は減ったけどな」
中宮 「私のとこに来る?」
有馬 「え?」
中宮 「さっきここに来るまでに寄って確認してきたのよ。家具が倒れてたり、散らかったりはしてるけど、
少し片付ければ平気そうだよ」
有馬 「そうだな・・・そうさせてもらうか」
(二人、歩き始めたところで)
警官 「ああ、合流できましたか」
二人 「お疲れ様です」
警官 「いやあ、よかったよかった。ところで、どちらへ?」
中宮 「一度、自宅へ戻ります。非常食も置いているし」
警官 「まだ、余震が無いとは限りませんからね。お気をつけて」
有馬 「いろいろとありがとうございました」
警官 「いえいえ、どんなときにも都民の役に立つことが本官の生きがいですから。それではっ!」
中宮 「すごい人だね」
有馬 「そうだな。これからも頑張ってもらいたい」
中宮 「さ、行こうか」
母親 「う、うう・・・」
女 「だ、大丈夫ですか?」
母親 「うう・・・」
女 「あ、あの・・・」
少女 「おばさん、大丈夫?」
母親 「うああああああっ!!!!(殴りかかる)」
女 「うわっ!」
母親 「舞ちゃん・・・舞ちゃん・・・!! ああっ・・・!!」
少女 「もしかして・・・この人・・・」
女 「うん・・・娘さんを・・亡くしたみたい・・・ね」
少女 「そっとして置いてあげよう・・・」
女 「・・・うん」
母親 「〜〜〜〜っ」
女 「・・・」(歩きながら)
少女 「どうかしたの?」
女 「私の大事な人も、あなたのお父さんお母さんも、無事だといいな、と思って」
少女 「さっきの人の娘さん・・・」
女 「うん。それに・・・」
少女 「?」
女 「ううん、なんでもない」
中宮 「ちょっと待ってて、急いで片付けちゃう」
有馬 「おう」
中宮 「会社のほうはどう?」
有馬 「うちのビルが倒れるなんてことは無かった。・・・はす向かいのビルは崩れちまったけどな」
中宮 「それって・・・大丈夫だったの?」
有馬 「向こうは避難がこっちなんかより早かったからな。軽い怪我が数人出ただけらしい」
中宮 「よかった・・・あ、入っていいよ」
有馬 「それじゃ、お邪魔します・・・と。 むしろそっちは大丈夫だったのかい」
中宮 「ちょっと疲れたけどね。怪我とかはないよ。 だけど・・・」
有馬 「?」
中宮 「来る途中にさ、ちょっと、ね・・・」
有馬 「なるほどな。何となくわかったぞ。・・・舞花が心配することじゃないさ」
中宮 「だいじな人がいなくなったら、みんなあんなふうになるのかな」
有馬 「さあな。だけど、思い出は残るだろ?・・・その人はいなくなったわけじゃないと思うぜ」
中宮 「そうだね。私もお父さんの・・・あ」
有馬 「どうした?」
中宮 「あれ、落としてきちゃったんだっけ」
有馬 「え?」
中宮 「ずっと歩きづらいところ歩いてたからね」
有馬 「・・・いいのか?」
中宮 「探しに行きたいけど・・・」
有馬 「たしか、渋谷のほうから歩いて来たんだよな」
中宮 「うん」
有馬 「じゃ、行くか」
中宮 「うん。 ・・・え?」
有馬 「言ってなかったっけ? 俺ってお袋ん家が青葉台のほうにあるんだ。
お袋ほっとくわけにも行かないし、形見も探せるだろ?行こうぜ」
中宮 「流石に今日じゃない・・・よね?」
有馬 「いくらなんでも今日は休みたいぞ。俺も疲れた」
中宮 「じゃあ、明日行こうか」
有馬 「よっしゃ、じゃあ今日はゆっくり休もう」
女 「それにしても・・・霞ヶ関のほうは平気なのね」
少女 「かすみがせき?」
女 「この国の偉い人たちが仕事をしてるところ。やっぱり建物が違うのね」
少女 「こっちの建物は、地震には耐えられないの?」
女 「やっぱり、お金が掛かっちゃうからね」
少女 「お金が掛かってる建物・・・東京タワーとか、スカイツリーはどうなのかな」
女 「どうかな・・・あ、二つとも見えるよ!!」
少女 「え、うそうそ・・・ほんとだ!・・・なんであんなに高いのに平気なのかな・・・」
女 「うーん・・・今度、そういうのに詳しい人に聞いてみるね」
少女 「やった!」
女 「詳しい人・・・ん、そういえばあいつは・・・」
少女 「あいつ?」
女 「ちょっとした知り合い。向こうまで行ったら会えるから、聞けるかもね」
有馬 「電気が切れてると、星がよく見えるな」
中宮 「そうだね」
有馬 「確か今日は新月だから、一晩中こんな感じだぜ」
中宮 「ずっと見てたくなっちゃうね」
有馬 「わかってると思うけど、明日は歩くからな?ちゃんと寝ないとしんどいぜ」
中宮 「はいはい」
有馬 「・・・こうして、星を見てるとさ」
中宮 「ん?」
有馬 「俺たちの小ささがよくわかるよな」
中宮 「そうかな」
有馬 「たとえば・・・あれ、はくちょう座のデネブまでの距離は1400光年だって言われてる。
今見てる光は1400年前のもの、ってわけさ」
中宮 「そう考えると、確かにそうかも」
有馬 「だろ?だけどさ、小さいからって何もできないわけじゃない。
人間は、こんだけ大きな文明を築いて、維持してきた。きっとまた、復興できるさ」
中宮 「そうだといいね・・・」
有馬 「さ、そろそろ寝ようぜ」
中宮 「うん。お休み」
有馬 「お休み」
3
(SE民衆のざわめき)
女 「やっぱり、ここにみんな集まるのね」
少女 「・・・だけど、ここには多分いないよ」
女 「どうして?」
少女 「うちにいるときに地震が起きたら、『ひなんじょ』に行くっていってたから」
女 「そっか。だけど、そろそろすこし休まないとね。歩き続けて、疲れたでしょ」
少女 「・・・うん」
女 「少し並ばせてもらおうか」
(SE民衆のざわめき)
女 「だけど、こんなときまでしっかり順番を守るのは、すごいよねー」
少女 「そうなの?」
女 「こんな光景が見られるのは、世界でもこの国ぐらいだって」
少女 「うーん・・・」
女 「どうしたの?」
少女 「だって、並ばないとお父さんと先生に怒られちゃうでしょ?」
女 (笑う)
少女 「ど、どうしたの!?」
女 「いや、なんでもない・・・ふふ」
少女 「あ、ほら順番だよ」
隊員 「おや、お子さんですか?」
女 「いえ、ちょっと事情があって親御さんのところまで送っていくことになりました」
隊員 「それは・・・ご苦労様です」
女 「たまたま同じ方向だっただけですよ。彼女がいるから、私も頑張れます」
隊員 「そうですか。どちらまで?」
女 「晴海のほうだと言ってました。・・・町は大丈夫ですよね?」
隊員 「今のところ、津波がきたって言う話はありませんね。橋が落ちたなんてことも無いと思います。
ただ、何が起こるかわかりませんから。くれぐれも気をつけて」
女 「ありがとうございます」
有馬 「持つものは、これで全部か?」
中宮 「多分ね。向こうに迷惑かけられないし、食べるものとかは多めに持ってかないと」
有馬 「そうだな。じゃ、行こう」
中宮 「うん」
(少し間をおいて、歩きながら)
有馬 「こうして歩くのは、ずいぶん久しぶりな気がするな」
中宮 「そうだっけ」
有馬 「たしか、ピクニックに行ったときだから、まだ大学いた頃のはず」
中宮 「大学生か、若かったなあ」
有馬 「おいおい」
中宮 「一度言ってみたかったの」
女 「ここまで来ると、東京タワーが大きく見えるね」
少女 「ほんとだ」
女 「あれだけ高い建物を建てられるって、よく考えるとすごいよね」
少女 「私何人分くらいだろう・・・」
女 「333mだから・・・220人分くらいかな」
少女 「すっごーい・・・」
女 「人が思い描くことは、必ず実現できるっていった人がいたな・・・」
少女 「じゃあ、タイムマシンも?」
女 「実現のための考え方はもうできてるよ」
少女 「どこでもドアも?」
女 「めちゃくちゃ小さいのでよければすぐに作れる、って言う人もいるね」
少女 「うわぁー・・・!」
女 「あなたは理科は好き?」
少女 「うんっ」
女 「だったら、これからもそれを続ければ、きっとあなたにも作れるよ」
少女 「ほんと!?」
女 「頑張れば、だけどね」
少女 「じゃ、頑張る!!」
女 (笑う)
中宮 「あ、ちょっとここ寄り道していい?」
有馬 「ん? ああ、寺か」
中宮 「うん」
(有馬、しばし待つ)
中宮 「さ、行こう」
有馬 「何をお願いしてきたんだ?」
中宮 「秘密。そう何度も願い事をかなえてくれるかはわからないけど・・・」
有馬 「ま、最終的には自分でやればいいのさ」
中宮 「その通り!」
4
女 「それにしても、よくこんなに歩けるね」
少女 「走ったりするのは結構好きだから・・・」
女 「そうなの?」
少女 「うん。お姉さんも、すごいよ」
女 「まあ、一応大人だからね。さ、もう少しだよ、頑張って歩こう」
少女 「・・・あっ」
女 「・・・あっ」
少女 「・・・なんだろう、あれ・・・?」
女 「多分だけど、地下鉄のトンネルが崩れたんじゃないかな・・・」
少女 「渡れない、よね」
女 「しかたない。回り道を探そう。・・・まだ歩ける?」
少女 「うん」
隊員 「おーい!!」
女 「あれ、さっきの隊員さん」
少女 「どうしたのかな」
隊員 「先ほどここのトンネルの陥没をお知らせするのを忘れてしまいまして・・・」
女 「あ、ご丁寧にありがとうございます」
隊員 「少し北のほう・・・日比谷のほうから回れますよ。では、私はこの辺で」
少女 「親切な人だね」
女 「そうだね」
少女 「なんだか、お父さんみたい」
女 「そっか、あなたのお父さんは皆を守るお仕事をしてるんだったね」
少女 「うん。だから、きっと今も『ひなんじょ』でなにかやってるはず」
女 (少し笑った後)「さ、頑張ってる隊員さんやお父さんに負けないように、歩かなくちゃね」
少女 「うん!」
女 「元気だなぁ・・・あいつ、元気かな・・・」
少女 「お姉さん、どうしたの?」
女 「あ、大丈夫。なんでもない」
有馬 「うわ、こりゃひどいな」
中宮 「うん、日比谷から東京タワーの近くまで続いてるって」
有馬 「人は・・・大丈夫だったのか?」
中宮 「やっぱり、何人か亡くなったって」
有馬 「やっぱりな・・・」
中宮 「だけど、電車に乗ってた人のほうはみんな助かったって。
消防隊と自衛隊がすぐに出動できたからだってラジオで言ってた」
有馬 「それはよかった。・・・この辺で落としたわけじゃないよな?」
中宮 「このあたりは普通に歩いてたから、多分大丈夫だと思う。
多分もっと先、もっと歩きづらいところで落としたんじゃないかな」
有馬 「なるほどな」
女 「もう3時過ぎか・・・少し急いだほうがいいかも。・・・いける?」
少女 「うん、頑張る」
女 「あ、多分あのあたりで向こうに渡れる」
少女 「やったー!!」
女 「あ、こら、走るんじゃないの!疲れちゃうよ!」
少女 「はーい・・・うふふ」
女 「何?」
少女 「お姉さん、お母さんみたい」
女 「そう?」
少女 「怒り方、そっくり」
女 「べ、別に怒ったつもりは無いんだけど・・・」
少女 「あ、この道まっすぐで橋にいけるよ!」
女 「そうだね。 あとすこしだよ、がんばろー!」
少女 「おー!」
中宮 「こんなときでも、東京タワーはしっかり立ってるなぁ」
有馬 「確か、関東大震災の倍の規模の地震にも耐えられる、っていう設計じゃなかったか?」
中宮 「そうなの?」
有馬 「確か、だけどな。重くするのを避けずに、がっちりネジみたいなの・・・リベットっていうんだけどな、
それであちこち固定してる。スカイツリーもそうだけど、日本で塔を建てるとなると
どうしても地震は計算に入れざるを得ないからな」
中宮 「スカイツリーにもなんか工夫があるんだっけ?」
有馬 「スカイツリーのほうは、五重塔の構造を応用して揺れを減らす、って言う話じゃなかったかな」
中宮 「どういうこと?」
有馬 「中心に柱を固定せずに立てて、塔本体と柱がズレて揺れるようになってるんだ。
すると、揺れの大きさが相殺されて、結果として小さな揺れになるってわけ」
中宮 「ふーん、よく知ってるね」
有馬 「これでも一応建築系の人間だしな。むしろ、舞花がこういう話を聞こうとするとは思わなかった」
中宮 「ちょっと、同じような質問をされたことがあってさ」
有馬 「そいつに教えてやりたい、ってことか?」
中宮 「そう。・・・落ち着いたら、また会いたいな」
女 「あ、ここ少し寄っていい?」
少女 「ここは?」
女 「お寺。すこし、仏様にお願いをしようと思って」
少女 「わたしもお願いする!」
女 「じゃ、一緒に行こうか」
(二人、合掌する)
少女 「お姉さんは何をお願いしたの?」
女 「秘密。あんまり人には言いたくないこと」
少女 「えー」
女 「あなたは?」
少女 「お父さんたちが、無事でいるようにって」
女 「いいね。きっと叶えてくれると思うよ」
少女 「お姉さんのは、叶えてくれないの?」
女 「まあ、あんまり神様仏様を信じてるわけでもないし。
一度でも叶えてくれたらいいな、っていうだけ」
少女 「きっと、叶うよ」
女 「何で?」
少女 「お姉さん、優しいもん」
女 「・・・ありがとう」
少女 「待っててね、お父さん!」
女 「・・・ん?」
少女 「どうしたの?」
女 「お父さんの・・・落としちゃった」
少女 「えっ、それって・・・」
女 「いいよ、今度探しに行くからさ。さ、もうすぐだよ、行こう」
少女 「う、うん」
5
(SE民衆のざわめき)
中宮 「やっぱり今日もやってるね」
有馬 「こんだけ人数がいれば、休むわけにも行かないだろうな」
中宮 「・・・一人ひとりがそれぞれ頑張ってるんだね」
有馬 「どうした?」
中宮 「昨日、すこし分けてもらったからね」
有馬 「なるほど。彼らが必死に仕事してくれるから、みんな安心できるしな。
ある意味じゃ、最高のヒーローだ」
中宮 「うん。だけど、ヒーローだけじゃない。それに協力してくれる皆がいるから、
ヒーローも頑張れるんだよ」
有馬 「やっぱり、この国に生まれてよかった」
中宮 「私もそう思う」
女 「この辺だよね」
少女 (こくり)
女 「さて、どこにいるのかな・・・」
少女 「あ、あの、もう大丈夫だよ?」
女 「ダメ。このあたりに悪い人がいるかもしれないからね」
少女 「そう、だね」
女 「さ、片っ端から避難所当たっていくぞー!」
警官 「おや、人探しですか?」
女 「ええ、この子の親御さんがどこかに避難しているはずなので」
警官 「なるほど。・・・お嬢さん、お名前は?」
少女 「鈴音、愛」
警官 「鈴音さん、ね。ありがとう」(女に向かって)「少々お待ちください」
(警官、無線で連絡を取り始める)
少女 「見つかるかなぁ」
女 「大丈夫、きっと見つかるよ」
少女 「・・・そうだよね」
警官 「・・・はい、わかりました」
少女 「見つかった!?」
警官 「ああ、ここから少し離れた晴海の野球場にいるそうだよ」
女 「よかった!!」
少女 「やったー!!」
警官 「もう少し、歩けるかな?」
少女 「うん!」
女 「では、私はこの辺で・・・」
少女 「まって、お姉ちゃん!」
女 「え?」
少女 「お父さんたちに、『親切なお姉さんについてきてもらった』って教えてあげなきゃ」
警官 「私も、それがいいと思います」
女 「わかった。じゃあ、もう少し一緒に行こうか!」
少女 「ありがとー!!」
中宮 「やっぱり霞ヶ関のほうにはなかった」
有馬 「じゃあ、あるとしたらここか・・・」
中宮 「六本木のほうだね。向こうだったらもう諦めるべきだと思うけど・・・」
有馬 「ま、ここにあると信じようぜ」
(二人、しばらく探す)
中宮 「あ、やっぱりここに落としてたんだ」
有馬 「見つかったか!!」
中宮 (目の前の墓標に向けて)
「お父さん、大事なお守り落としちゃってごめんね。これからも大事にするからね」
有馬 「しかし・・・よく無事だったな、このお墓も」
中宮 「・・・いいひとだったから、じゃないかな。娘が言うのもなんだけど」
有馬 「意外だな、そういうのは信じてないと思ってた」
中宮 「信じて無かったよ。だけど・・・」
有馬 「だけど?」
中宮 「何となく、そのほうが幸せだな、と思ったから」
有馬 「・・・そうかもしれないな」
中宮 「すこし、ここにいていい?水も替えてあげたい」
有馬 「わかった」
警官 「いやー、無事にあえて何よりでした」
少女 「うん、お姉さんもおじさんもありがとう!」
女 「そんな、頑張ったのはあなただよ」
警官 「いえいえ、私からもお礼を申し上げます」
少女 「お姉さんがいなかったら、ここまで来れなかった。ほんとにありがとう」
女 「・・・どういたしまして」
少女 「それじゃ、また今度会おうね!」
警官 「さて、あなたはこれからどうなさいますか?」
女 「私もこれから家へ寄って、その後別の避難所へ向かいます。・・・そこで待ち合わせているので」
警官 「そうですか。送っていきましょうか?」
女 「いえ、そんなに距離も無いですし、大丈夫です。お勤め頑張ってください」
警官 「ありがとうございます。縁があればまたお会いしましょう」
中宮 「渋谷の町は、すっかり面影なくなっちゃったね」
有馬 「表は震災への配慮が薄いし、裏はそもそも古い町並みだったからな・・・仕方ないといえば仕方ないさ」
中宮 「一刻も早く、復興してくれるといいね」
有馬 「うちの会社でも、たぶんそろそろボランティアが始まるぜ」
中宮 「?向こうも大変だったのに?」
有馬 「ああ、違う違う。東北とか、近畿とかさ。
そっちの支部に頼んで、人を寄越してもらえることになってる。
建築とか掃除に関してはプロだからな」
中宮 「そっか」
有馬 「さ、もう少しで青葉台だぜ」
中宮 「うん」
女 「ただいま」
(ぐるっと舞台を歩き回って)
女 「やっぱり、散らかっちゃったな。
・・・少しだけでも片付けて置こう・・・あ」
(写真を見つける)
女 「・・・無事でいてよね・・・無事か。
殺したって死なないようなやつだし。あのメゲない男がそうそう倒れるわけ無い。
うん、きっと大丈夫。大丈夫・・・」
(しばらく、自己暗示)
女 「あーっ!! 無理!! 不安!! あーでも片付けやっとか無いと・・・」
(猛スピードで片付け始める)
女 「あとは、帰ってきてからでいいや!!行ってきまーす!!」
有馬 「よかった、家は無事みたいだ」
中宮 「ほんとに、ここ?」
有馬 「大学のキャンパスに避難してるわけじゃなかったし、外出もしてなかったはずだから、きっといる」
(一呼吸おいて)
祖母 「おお、お帰り・・・」
有馬 「お袋、無事だったか!」
中宮 「よかった・・・!」
祖母 「舞花さんも、無事で何より。さ、ゆっくりしていってくださいな」
有馬 「一応、食いもんとかは持ってきたけど?」
祖母 「馬鹿言うんじゃないよ。息子に頼り切りになるわけいかないだろ?
それを食うのは最後の手段、大事にとっときな!」
有馬 「へいへい」
祖母 「じゃ、ちょっと支度してくるからね」
(SE着信音)
中宮 「あ、携帯つながるようになったんだ・・・誰だろう?・・・もしもし」
少女 「あ、えーっと・・・お姉さんですか?」
中宮 「!!愛ちゃん!?」
少女 「はいっ! ・・・お姉さんも、ちゃんと会えましたか?」
中宮 「うん! 落ち着いたら、また会おうね!!」
少女 「あ、その前に、一つだけいいですか?」
中宮 「何?」
少女 「東京タワーとスカイツリー・・・」
中宮 (少し笑って)「ああ、そうだったね。えっと、東京タワーは・・・」
女 「いるかな・・・」
(しばらく、見回したり、聞き込んだりといったジェスチャー)
女 「嘘・・・」
女 「やっぱり、向こうから帰って来れてないんだ・・・!」
女 「お願い、無事でいて・・・!」
女 「私には待つことしかできなかった。祈ることしかできなかった。
歯がゆい。腹立たしい。せっかく配られる食事もなかなかのどを通ってくれない。
一日。まだ帰ってこない。 二日。帰ってこない。 三日。来ない。 そして、四日目・・・」
有馬 (しばらく周りを見渡しながら登場→女に気づく)
「舞花っ!!」
女 「海斗っ!!」
有馬 「よく・・・無事でいてくれたっ・・・」(半泣き)
女 「うん・・・さて、帰らなきゃね」
有馬 「ああ・・・!!」
女・中宮「もしも町が滅んでも、人は変わらず生き続ける」
少女 「もしも人が滅んでも、地球は変わらず回り続ける」
女・中宮「ちっぽけなことかもしれない」
少女 「どうにもならないかもしれない」
女・中宮「だけど、それしかできないから」
少女 「後悔したくないから」
有馬 「これはゴールじゃない」
女・中宮「これからがスタート」
有馬 「あまりに深い爪痕を、埋めていかなければいけない」
女・中宮「壊れたものを、直さなきゃいけない」
有馬 「いつまでかかるかわからない」
女・中宮「終わらないかもしれない」
有馬 「だけど、いつか元通りにするために」
女・中宮「いつか笑って過ごすために」
四人 「もう一度、歩き始める」