Another Cast 〜もう一人のホームズ〜
登場人物
七瀬 琴乃(シャーロック・ホームズ) 一年生 総じて、平凡。
佐伯 美波(ワトソン博士) 二年生 フランク。
大矢 万理(ハドスン夫人) 一年生 成績はかなりいい。
木下 修二(レストレイド警部) 二年生 体育会系。
菅間 優貴(セバスチャン・モラン大佐) 一年生 爽やか系。
鯉沼 鈴奈(警官) 一年生 元気系。
渋谷 沙紀(照明・演出) 二年生 冷静。
坂巻 浩太(音響・舞台監督) 二年生 根回し系。
高野 美々(顧問)
小野 莉沙 二年生 部長。
この台本を読む前に
この台本は、実験的要素を多く含んでいるため、役者への負担が大きくなっています。
以下一例
・「劇の製作途中」を表現するため、中途半端な状態を演技する
・「裏方」役が存在するため、音響卓・調光室の間を移動する
・「練習中」を表現するため、劇場全体を舞台として使う(客席に顧問や裏方が座る)
・結構客電つきっぱなし
さらに、前半部分は役者の技量によるところが大きいです。日常会話のオンパレードです。
割と繰り返しが多いので、うまくモチベーションの差で演じ分けられるといいと思います
独白のときは、活動日誌的なサムシングを持ってるといいと思います。
「考える」台本を目指して作りました。頑張ってパーソナリティを出してください。
最後に、この台本が目指すのは「等身大演劇高校生の日常」であることを忘れずに。
必要な小道具・大道具について
・・・わりとギミックを多用した台本なので用意するものは多い、と思います。
・「シャーロック・ホームズ」
・台本(の様な何か)*人数分
・日誌(の様な何か)
・ホワイトボードとペン
・空気銃
・拳銃
・花束
・松葉杖
・ベッド(移動できるもの)
・肘掛け椅子*2
・テーブル
・(大量の箱と大量の本)
・(割れた胸像)
・(つぶれた弾丸)
序幕 日常
開幕時:七瀬、木下、菅間、鯉沼、坂巻、渋谷
出番無:高野
七瀬 「『あらゆる可能性の中から、不可能なものを消していけば、どんなに信じられなくとも、
それが真実に間違いない』・・・やっぱ格好良いなあ」
木下 「なんだ七瀬。またホームズか?」
七瀬 「あ、木下先輩」
木下 「ったく、お前のホームズ好きは病気レベルだな」
七瀬 「あっ、ひどいです!」
木下 「っと、小野が来た。始まるぜ」
七瀬 「こんにちは」
小野 「こんにちは。さて、もうみんないる?」
木下 「いや、佐伯と大矢がまだだな」
七瀬 「あ、大矢さんは掃除当番です」
佐伯 「こんちはー」
小野 「じゃあ、もう少し待ちましょう」
(日常会話が続く)
(タイミングを見計らって、大矢が入ってくる)
大矢 「すいません、遅れました!」
小野 「じゃあ、はじめましょうか。」
(一同、整列)
小野 「気をつけ、礼!」
一同 「お願いしまーす!」
小野 「さて、予告してあったとおり、今日はミーティングからはじめます。
もう大会シーズンだし、定期試験なんかも考えると練習できるのは実質一ヵ月半ぐらいだから、
そろそろ台本と配役を決定しておくべきだと思うんだけど」
(一同、異議がないことを表明)
小野 「で、みんな台本はちゃんと探してきた?」
佐伯 「探したけど・・・」
菅間 「そろそろ、出来る台本も減ってきてますし・・・」
木下 「実際、何人ぐらいのやつがいいんだ?」
小野 「そうね・・・今、裏方をやりたい人はどれくらい居る?」
(坂巻、渋谷、七瀬が手を挙げる)
小野 「ってことは、6人の台本かな。案が出ないなら、今からでも調べなおしてもらうけど・・・
あと、書いてきた人は居ないの? 美波と優貴が書くって言ってなかったっけ?」
菅間 「それなんですけど・・・5分分ぐらい書いたところで満足しちゃいました」
佐伯 「うまい続け方が見当たんなくて没った」
小野 (ため息をつく)
(七瀬、おずおずと手を挙げる)
七瀬 「あのぉ・・・」
小野 「どうしたの、琴乃ちゃん?」
七瀬 「これなんか、どうでしょうか」
七瀬、さっきまで読んでいたホームズの本を見せる
小野 「これって普通の本だよね?演るのは別にかまわないけど・・・
今週中に、台本の形に書き直してこれるかな?」
七瀬 「! 解りました!」
七瀬以外は掃ける
七瀬、下校途中に
七瀬 「とは言ったものの・・・どの話にしようかなぁ・・・
役者の人数とか時間とかの制限もあるし・・・」
(七瀬、しばらく本を捲って)
七瀬 「やっぱり、これだよね」
(七瀬、独白)
七瀬 「入学したあと、新入生歓迎公演を観て入部した私。
練習はやっぱり厳しいけど、劇を作り上げたときの喜びも格別だった。だから私はここにいる」
暗転。
二幕 台本決定
開幕時:全員
出番無:なし
小野 「さて、異論がなければ琴乃ちゃんの台本に決定しちゃうけど、いいかな」
(一同、異議なし)
小野 「じゃあ、早速配役を決めていくよ。まず、ホームズ役。誰かいるかな?」
坂巻 「小野さんがいいんじゃないかな」
小野 「ほかには?」
「小野がいい」が多数。
小野 「それじゃあ次、ワトソン役・・・」
佐伯 「あたしがやる」
小野 「ほかは?」
全員 「・・・」
小野 「じゃあ次、レストレード役・・・」
照明C,F
小野 「これで全員決まったね」
佐伯 「じゃあ、早速練習に・・・」
木下 「時計」
佐伯 「あっ」
小野 「(小さく笑う)じゃあ、明日から練習始めるよ。役者も裏方も、ちゃんと台本頭に入れてきてね」
一同 「はーい」
小野 「(高野に向き直って)先生、なにかありますか?」
高野 「そうね、先輩からちゃんといろいろ受け継いでるみたいで安心しました。
それと、坂巻君から頼まれてた件なんだけど・・・」
木下 「なんのことだ?」
坂巻 「前に、大会前に何回か実際の劇場で練習したいって言ってただろ?
それで、空いてる日がないか探してもらってたんだ」
高野 「何日か、空いてる日はありました。後は予算の問題」
坂巻 「それなら、2回分ぐらいは何とか」
高野 「それじゃあ、後はみんなのほうで決めて。決まったら10日前までに教えて」
小野 「ありがとうございます(ほかも続いて言う)
じゃあ、今日はここまでにしようか。気をつけ、礼」
全員 「ありがとうございました」
(荷物をまとめ始める)
(台詞の無い人も日常会話を続けること)
(タイミングを見て下校すること)
七瀬 「あの・・・いいんですか?」
小野 「なにが?」
七瀬 「あんな台本で・・・」
小野 「初めて台本を作ったにしてはよく書けてると思うよ。
ほかに案もなかったし、十分上演に耐える台本だと思う」
七瀬 「あ、ありがとうございます」
小野 「でも、たくさん手直ししてもらうところはあるけどね」
七瀬 「ええ〜〜っ!?」
小野 「冗談だよ。台本はいろんな人の意見を取り入れてこそよくなるんだから、
直す作業も分担するし、アイディアもみんなで出してもらう。協力してこその部活でしょ」
七瀬 「あ、あせった〜」
小野 「ほら、帰ろう。もうみんな先帰っちゃったよ」
七瀬 「あ、はい」
(二人ともしばらく荷物をまとめて)
(小野は日誌を書いている)
七瀬 「お疲れ様でした」
小野 「はい、お疲れ様」
小野 「(日誌を閉じる)さて、わたしも帰ろうかな」
(小野、独白)
小野 「演劇って、絶対に一人じゃ出来ない。
一人ひとりが与えられた仕事をしっかりやって、それをお客さんが観て楽しむ。
この一体感は、そこに居た人しか味わえない。だから、わたしは演劇が好きなんだ」
3幕 練習
開幕時:小野、佐伯
出番無:高野
(この時点ではまだ台本を持ったまま)
小野 「じゃあ、一幕のワトソンの語りから始めるよ」
全員 「(舞台袖から)OKです」
小野 「(舞台袖から)行きます、用意」(手をたたく)
佐伯 「1894年の春、ロナルド・アデア閣下が、なんともわけのわからない、
奇妙な状態で殺されるという事件が持ち上がって、ロンドン中は沸き立つ、上流社会は慌てふためく、
という騒ぎになりました。あの事件は、犯罪自体が面白いものでしたが、
何しろ冒険に満ちた私の生涯の中でも、突拍子も無い出来事にぶつかったために、
事件の面白さも、私には感じられなかったくらいです」
(警官Aとその他エキストラ(2人)、登場)
佐伯 「あの日は、この事件について一日中あれやこれやと一日中考えて見ましたが、残念ながら、
少しもはかどりませんでした。夕方の散歩に、私は公園を横切り、六時にパーク・レインと
オックスフォード街の角へ出ました。道には野次馬が集まり、みんな同じ家の窓を見つめています。
だから、アデア閣下の家はすぐにそれとわかりました」
鯉沼 (なんか馬鹿げた推理を述べる)
佐伯 (首をかしげながら引き返そうとし、後ろにいた小野にぶつかる)
小野 (持っていた本を落とす)
佐伯 (本を拾い上げてから、しきりに謝罪する)
小野 (怒ったようにしながら、はける)
佐伯 「これは商売か物好きか知らないが、あまり有名でない本を漁り歩いている、
貧乏な、本道楽の男だな、と思ったのを覚えています。
いっぽう、このパーク・レイン427番地の調査は、事件の解決にほとんど役立ちませんでした。
ますますわけが解らなくなった私は、ケンジントンの自宅へ引き返しました」
(警官とその他、はける)
女中 「どなたか、お目にかかりたいという方がいらっしゃいました」
(女中、はける)
(小野、登場)
佐伯 「おどろいたことに、そこにいたのは、先ほどの本道楽の老人でした」
小野 「(しわがれた声で)また私にあって、びっくりなさいましたな」
佐伯 「ええ、その通りです」
小野 「先ほどは態度が少しばかりつっけんどんだったけれども、あれは別に悪気があってのことじゃない、
むしろ、本を拾ってありがたいと思っております、とお詫びを申し上げようと、ここまでやって参りました」
佐伯 「つまらんことを、あなたは大げさに考えすぎますな。しかし、どうして私をご存知です」
小野 「じつは私、ご近所の者なんで。チャーチ街の角にある、ちっぽけな本屋、ご存知ですか。
旦那さんも本はお集めでしょう、ここに『イギリスの鳥』、『カタラス詩集』それに『聖戦』
があります・・・みんな掘り出し物ですよ。これだけあれば、あそこの本棚の、
二段目の隙間がふさがるんですがね。隙間があっちゃ、おかしいですよ、だんなさん」
佐伯 (本棚を振り返る)
小野 (背筋を伸ばす)
佐伯 (振り返り、気を失って倒れる)
渋谷 (舞台袖から)「暗転」
佐伯 「私が振り返ると、そこにいたのは、三年前、ライヘンバッハの滝つぼに落ちたはずの、
シャーロック・ホームズでした。そして私は、どうやら、気を失ってしまったらしいのです。
こんなことは、後にも先にも、これきりでした」
小野 「ワトソン、ごめん、ごめん。君がこんなにびっくりするとは思わなかった」
渋谷 「(手をたたく)OK!」
佐伯 「なれないと難しいな」
七瀬 「まあ、19世紀のイギリスの話ですからね」
小野 「てか、このあと煙管を咥えなきゃいけない私はどうすればいいのよ」
木下 「あはは」
渋谷 「この調子なら、二週間後ぐらいには一回通せそうだね」
小野 「そうだね」
渋谷 「じゃあ、その日に一回ホールの予約入れとく?」
全員 「賛成」
小野 「じゃあ、おねがい」
渋谷 「わかった」
小野 「一回休憩入れるよ」
全員 「はーい」
(佐伯、独白)
佐伯 「私の性格はあんまりワトソン博士とは似てないんだよね。
ただ、ホームズの友達として、彼を支えてる、って言う意味ではシンパシー感じるかも」
暗転
(七瀬、独白)
七瀬 「先輩、ワトソンはホームズのことを心配していましたが、ホームズだって
本当は、ワトソンを気にかけていたんですよ?ただ、彼は不器用だっただけなんです」
暗転
4幕 舞台練習
開幕時:佐伯、小野
出番無:
客席 :高野
高野 「それでは、2幕の確認行きます」
坂巻 (音響席から)「音響準備できました」
渋谷 (調光卓から)「照明もOKです」
高野 「役者さん準備はいいですか?」
(準備が出来ていないようなら照明と音響のチェックをして時間を稼ぐ)
役者 「はい!」
高野 「いきます、用意!」(手をたたく)
照明F,I
佐伯 「ホームズ!本当に君かい。まるで夢のようだな。あのすごい滝つぼから、よく這い上がってこれたものだ」
小野 「待ってくれ、本当に話が出来るんだろうな。
どうもいらん芝居を打ったもんだから、君をひどく脅かしてしまったみたいだ」
佐伯 「大丈夫、大丈夫。まったく、自分の目が信用できないよ。よりによって君が、僕の書斎に立っているとは
・・・なるほど、幽霊じゃないようだ。とにかく、かけたまえ。
ライヘンバッハの滝つぼから、どうやって登ってきたのか、ぜひ聞かせてほしいものだ」
小野 「背骨を伸ばせてありがたいよ。何時間も休みなしに背中を丸めてなきゃいけないなんて、
まったく冗談じゃないぜ。ところで、ひとつ夜なべの仕事があるんだ。
詳しい話は、仕事が済んでからにしたいんだが」
佐伯 「今聞かせてくれたっていいじゃないか」
小野 「今夜、一緒に来てくれるかい」
佐伯 「いつでも、どこへでも、のぞみのままだ」
小野 「昔とちっとも変わらないな。出かけるまでに、まだ時間はある。
よし、滝つぼの話をしよう。あそこからでるのは、そんなに難しくなかった。
理由は簡単。僕は滝つぼなんかに落ちはしなかったからさ」
佐伯 「落ちなかった、だって!?」
小野 「そうだ、ワトソン。君へ書いた手紙は、決して贋物じゃなかった。死んだモリアーティが狭い山道に立って、
こっちの逃げ道を塞いだときの、あいつのぞっとするような姿を見たとき、僕の人生もこれで終わりだと、
九分どおりそう思ったものだ。あいつの目の中に、僕への殺意がありありと見えた。
そこで、簡単な手紙を書いてもいいかとたずねると、どうぞという。それが、後で君の手に入った・・・」
照明C,O
佐伯 「(何か叫び声をあげる)」
SE:落下音、ガラスの割れる音
木下 「おい、どうした!?」
大矢 「照明つけてください!」
照明F,I
照明がひとつ落ちており、ガラスが散乱している。そばで小野が脚を怪我している
小野 「いたたた・・・」
大矢 「先輩!」
佐伯 「莉沙!」
木下 「大丈夫か!」
(小野、うずくまったまま)
菅間 「先生、救急車を!」
高野 「わかりました!」
暗転
効果音:サイレン(救急車)
(小野を励ますせりふがあってもいいかも)(うまく緊迫感を出してくれっ)
照明F,I
部員全員が舞台上にいる。(高野はいない)
坂巻 「どうしようか・・・」
七瀬 「先輩・・・」
佐伯 「・・・一応、明日からも練習は続けるよ。莉沙と相談しながら・・・」
木下 「ホームズ役はどうすんだ!?もう大会まで2週間ぐらいしかないんだぜ!?」
佐伯 「それは・・・」
七瀬 「・・・私がやります」
鯉沼 「琴乃ちゃん!?」
七瀬 「浩太先輩も沙紀先輩も裏方のチーフだし、出来るのは私しかいないと思います。
それに、台詞はある程度覚えてますし、明日からでも練習に入れます」
佐伯 「・・・わかった。一応、莉沙には報告しておくね。それじゃあ、また明日。気をつけて帰ってね」
(鯉沼と七瀬だけが残る)
鯉沼 「琴乃ちゃん、大丈夫なの・・・?」
七瀬 「・・・わからない。だけど、私がやるしかないんだよ。・・・先輩方の最後の大会、
棄権なんてしてもらいたくない。・・・もちろん、不安もあるけど・・・」
鯉沼 「琴乃ちゃんなら、きっと大丈夫だよ。頑張り屋さんだもん」
七瀬 「そういってくれると、助かる」
鯉沼 「さ、私たちも帰ろう」
七瀬 「うん」
暗転
(木下、独白)
木下 「まさかこんなことになるなんて・・・七瀬だって、本当は不安に違いない。
でも、やれるだけのことをやんなきゃ、あいつに・・・小野に申し訳がたたねえ」
暗転
(七瀬、独白)
七瀬 「先輩、私なんかが代役で、本当にいいんでしょうか・・・
不安なのは私だけじゃなくて、きっとみんな、そうなんです」
5幕 特訓
開幕時:出番無以外
出番無:高野・小野
佐伯 「じゃあ、きょうはここまで。また月曜日。あいさつするよ・・・気をつけ、礼」
全員 「ありがとうございました」
七瀬 「先輩、あの・・・」
佐伯 「?」
七瀬 「ちょっと自主練付き合ってもらえませんか?」
佐伯 「ああ、いいよ」
菅間 「ぼくもいいですか?」
七瀬 「あ、いてくれると助かる」
鯉沼 「じゃあ、私も」
木下 「お疲れっしたー」
一年 「お疲れ様でーす」
二年 「お疲れー」
(以下、佐伯・七瀬・菅間以外はタイミングを見て帰っていく。日常会話を続ける)
七瀬 「大佐のシーンの前からやりたいんですけど」
三人 「OK」
鯉沼 「行きます、用意!」(手をたたく)
七瀬 「ここがどこだか、わかるかい」
佐伯 「向こう側は確か、ベーカー街だね」
七瀬 「その通り。ここはベーカー街221Bのむかい、カムデン・ハウスだよ」
佐伯 「だが、どうしてこんなところにやってきたんだい」
七瀬 「あのすばらしい絵のような建物が、ここからよく見えるからさ。
あの部屋が、僕たちの冒険のそもそもの出発点だったわけだ。
ワトソン、昔の僕たちの部屋を見てごらんよ。ただし、外から見つからないように気をつけてくれよ。
三年間留守にしていた間に、僕の腕が鈍ったかどうか、見ていてくれたまえ」
佐伯 (しばらく目を凝らす)「あっ!」
七瀬 「どうだい、僕の姿に、良く似てるだろう」
佐伯 「あっちのほうがよっぽど本物らしいと口から出掛かったところだ」
七瀬 「あれは蝋細工の胸像なんだ。手筈については、今日の午後に自分で決めてきた」
佐伯 「どうしてそんなことをやったんだい」
七瀬 「あの部屋が監視されていることに気づいたからさ。
お頭がライヘンバッハでお休みになってる、あのかわいい一味の皆さんにね。
僕があの部屋に戻ってくることを、やつらは信じていた。
果たして、僕が今朝、あの部屋に戻ってきたわけさ」
佐伯 「何でそれに気づいたんだい」
七瀬 「窓から外を見たときに、やつらの見張りを見つけたんだ。
パーカーという男で、ぜんぜん危険じゃない。追い剥ぎが本職で、ユダヤ琴の名人。
気をつけるべきなのは、こいつの後ろに控えている、ずっと恐ろしい人間だ。
今ロンドン中で、一番悪賢い、物騒な悪人。これが今夜、僕を狙っている男だよ。
そして、向こうは僕らに狙われていることを、まったくご存じないのだ・・・あっ!」
(菅間、空気銃を手に入ってくる。)
(二人、息を殺している。)
(菅間、胸像に狙いを定め、撃つ。)
(七瀬、菅間を殴り倒す。)
(菅間、七瀬の首を絞めにかかる。)
(佐伯、拳銃の台尻で菅間を殴る。)
(菅間、倒れる)
(七瀬、呼子を吹く)
鯉沼 (手をたたく)
(お互いに意見を交換する)
佐伯 「さ、時間も遅いしそろそろ帰ろう」
三人 「はい」
(荷物をまとめて、帰る。鯉沼と菅間は別方向)
佐伯 「私は明日、莉沙のお見舞いに行きたいんだけど、琴乃ちゃんもいく?」
七瀬 「はい!」
佐伯 「莉沙、最近結構悩んでてさ・・・琴乃ちゃんが頑張ってるところ見せれば、莉沙も安心すると思う」
七瀬 「うう、プレッシャーが・・・」
佐伯 「気負わない、気負わない。気負ってたら莉沙が余計に自分を攻めちゃうじゃん」
七瀬 「が、頑張ってみます・・・」
(坂巻、独白)
坂巻 「小野さんが動けなくなって、どうなることかと思ったけど、
佐伯さんが予想以上にうまく纏めてくれてます。それに、琴乃さんも思った以上に頑張り屋で、
どんどん上達してますよ。何とかなるんじゃないかな」
(七瀬、独白)
七瀬 「何とか手ごたえをつかめてきました。本番までに仕上げられるよう、まだまだ頑張ります!」
暗転
6幕 病院
開幕時:七瀬、佐伯、渋谷
出番無:それ以外(小野除く)
(七瀬と佐伯が歩いている、そこへ木下がやってくる)
(花束なんか持ってるといいかも)
七瀬 「あ、渋谷先輩」
渋谷 「あ、琴乃ちゃんに美波」
佐伯 「沙紀も?」
渋谷 「ええ」
佐伯 「じゃあ、行こうか」
(小野、ベッドに横たわっている)
小野 「いらっしゃい」
七瀬 「こんにちは」
渋谷 「具合はどう?」
小野 「何とか少しは歩けるようになってきた。もう一回舞台練習やるんだよね?」
佐伯 「そのつもりだよ」
小野 「じゃあ、その時は顔出せるかも」
佐伯 「無理はしないでよ」
小野 「平気平気」
(しばし、他愛もない会話が続く)
佐伯 「じゃあ、私たちはそろそろ帰るから」
小野 「あ、琴乃ちゃんはちょっと残ってもらえるかな?」
七瀬 「は、はい」
渋谷 「待ってたほうがいいかな?」
七瀬 「いえ、先に帰っていても…」
小野 「ううん、すぐ終わるから、大丈夫」
佐伯 「じゃあ、部屋の前で待ってるね」
(佐伯、渋谷、はける)
小野 「そんなに固くならなくていいよ。ちょっと聞きたいことがあってね。
・・・美波は部活の運営に自信がないって言ってるんだけど、実際のところどうなのかな?」
七瀬 「そうですか・・・でも、美波先輩は美波先輩なりに頑張ってると思います。
少なくとも、私はそんなに悪い印象は受けてません」
小野 「そう、ならよかった。あと、もう一つ。劇はちゃんと完成しそう?」
七瀬 「正直に言えば、自信はないです。先輩たちは去年の秋、県大会まで行ったんですよね…?
そんな先輩たちに交じって私なんかがいていいのかなって…」
小野 「そんなことでどうするの。あなたは少なくとも、ほかの部員たちに認められてこの劇の役者、
それも最重要のキャラクターを演じてるんだよ?もっと自分に自信を持って。
それができないなら、私のところに来て。できるだけ相談に乗るし、
私に教えられるところは教えるから。少なくとも、自分を卑下するのはまだ早いんじゃないかな」
七瀬 「先輩…ありがとうございます!私、できるところまでやってみます!」
小野 「よしよし。さ、二人が待ってるよ」
七瀬 「はい。ありがとうございました!」
暗転
(渋谷、独白)
渋谷 「莉沙が元気そうで安心しました。あれ以降、琴乃ちゃんもなんだか元気になったみたいで、
お見舞いに行ってよかったな、と思います。もうすぐ二回目の舞台練習がありますね。
あんな事故が二回も起こらないよう、照明のロックはちゃんと確認しておかないと」
(七瀬、独白)
七瀬 「部長と直接話し合えてとってもためになりました!
先輩ほどうまくは演じられませんが、私の中で最高の演技ができるよう、頑張ります」
暗転
7幕 再び特訓
開幕時:七瀬、佐伯
出番無:小野、高野
渋谷 「次、ホームズの語りの途中から!行きます、用意!」(手をたたく)
七瀬 「ただ、一人だけなんでも打ち明けられる相手がいた。
ワトソン、君にはお詫びのしようもない。しかし、僕が死んだものと世間に思い込んでもらうのが
何より大事だったし、第一君自身がそう思い込んでいなかったら僕の不幸な最期を
あれほど読者に信じ込ませるようには書けなかっただろう。
この三年間、僕は君に手紙を書こうとして、何度もペンを執ったには執ったが、
僕の身をこんなに案じてくれる君のことだから、
どんな調子で僕のことをしゃべってしまわないとも限らない。」
佐伯 「なるほどな。ということは、今日の午後も…」
七瀬 「ああ。僕には危険が迫っていたし、君を驚かせたりしようものなら、
取り返しのつかない、困ったことになりかねなかったんだ。
マイクロフトについては、必要な金をもらう関係で、なんでも打ち明けておかなければならなかった」
佐伯 「そういうことだったのか。それにしても、どうして三年間も行方をくらましていたんだい」
七瀬 「ロンドンでの裁判では、一番重要な悪党が二人漏れていたのさ。
こいつらこそ、僕を付け狙ってる連中だ。だから僕は二年間、チベットを旅行していた。
君はシガースンというノルウェー人の書いた、風変わりな探検記を読んだと思うが、
あれがまさか友人からの便りだとは思っても見なかったろう。
それからペルシャを抜けてメッカによった。わずかな時間だったが、なかなか楽しかったよ。
結果については、外務省に結果を送っておいたよ。
そのあとヨーロッパにもどってから、南フランスのある研究所で、
コールタールからとれる誘導体の研究をしばらくやった。この仕事もひと段落ついたし、
ロンドンにいる僕の敵も一人だけになったのが分かったので、そろそろ帰ろうかと思っていた矢先、
このパーク・レインの怪事件だ。そこでぼくはすぐにロンドンへ戻り、人を頼まずに
自分でベーカー街のわが家へ乗り込んだ。ハドスンのおかみさんはびっくりして、
物凄いヒステリーを起こした。
見ると、マイクロフトが部屋の中をすっかり昔のままにしておいてくれていた。
というわけで僕は今日の二時にあの部屋の昔の椅子に腰かけていた。
ただ一つの願いは、よくあの部屋に来てくれていた旧友ワトソンを向かいの椅子に座らせたかった」
渋谷 (手をたたく)「OK!」
佐伯 「一瞬休憩入れるよ」
全員 「はい」
木下 「わかってると思うが、明日の舞台練習には小野が来るんだからな!下手なもんは見せられねえぞ!」
全員 「はい!」
佐伯 「次やりたいところは?」
七瀬 「モラン大佐が捕まったところからお願いします」
佐伯 「わかった。出番のあるキャストは準備して!」
全員 「はい!」
渋谷 「行きます!用意!」(手をたたく)
七瀬 (呼子をふく)
(木下、鯉沼、登場)
七瀬 「やあ、あなたでしたか、レストレイドさん」
木下 「ええ、今夜は人に頼まず、自分で出かけてきました。
ロンドンへ帰ってこられて、本当に良かったですなあ」
七瀬 「少し一般市民の応援もいるかと思いましてね。
迷宮入りの殺人事件が、年に三つもあっちゃいけませんよ。
しかしあのモールジー事件の解決は、なかなか見事なものでした」
菅間 「悪魔め!この、ずるがしこい悪魔め!」
七瀬 (襟を直しながら)
「こんばんは、大佐。シェークスピア劇のせりふにあるでしょう、
『旅の終わりは、好いた同士のめぐり合い』ってね。
あの滝の上で横になっていた時、いろいろお心づくしをいただいた、
あれから確か、お目にかかっていませんでしたね」
菅間 「なんという、抜け目のない悪魔だ!」
七瀬 「紹介しましょう、こちらはセバスチャン・モラン大佐。元インド派遣軍所属で、
猛獣射手の第一人者です。あなたが仕留めた虎の数の記録は、まだ破られていませんでしたな。
実を言うと、あなたがこの空き家を使ったのは意外でした。
てっきり通りから撃ってくるものだと思っていたので、
レストレイドさんたちにはそちらを張り込んでもらっていたのです。
それ以外は、完全に僕の予想の範囲内でした」
菅間 「君が私を逮捕する正当な理由が歩かないかは知らんが、少なくともこの男にばかにされて
黙っていなければならん理由はないはずだ。法律に服せというのなら、
法律の認める正しい方法でやってもらいたい」
木下 「なるほど、それはもっともだ。ホームズさん、我々が引き上げる前に、仰ることはありますか」
七瀬 「一つだけ。一体、どんな罪名をつけるつもりですか?」
木下 「もちろん、シャーロック・ホームズ氏殺害未遂ですよ」
七瀬 「僕は決してこの事件に名前を出すつもりはありませんよ。
あなたは、やっとあの男を逮捕したんです」
木下 「あの男?一体、誰のことです?」
七瀬 「先月三十日、パーク・レイン427番地の空いた窓からロナルド・アデア閣下を殺害した犯人、
セバスチャン・モラン大佐、そのひとです。罪名はそれですよ、レストレイドさん。
さて、ワトソン、風が吹き込むのさえ我慢してくれれば、三十分ばかり話そうじゃないか。
たぶん、君には面白くて、ためになるとおもう」
渋谷 「OK!」
佐伯 「はい、じゃあ今日はここまで!ちゃんと意見交換はしておいてね!
わかってると思うけど明日は二回目の舞台練習だよ!各自がやるべきことをきちんと把握しておくこと!」
全員 「はい!」
佐伯 「気をつけ、礼!」
全員 「ありがとうございました!」
(各自、荷物を纏める。日常会話を忘れずに)
(適宜、帰っていく。佐伯と大矢が残る)
大矢 「琴乃、いつにも増して気合入ってましたね。何かあったんでしょうか」
佐伯 「この間莉沙のお見舞いに行ったときに何か話してたよ。それだと思う」
大矢 「あ、お見舞いいったんですか?私も行けばよかったな」
佐伯 「あんまり大人数で押しかけても悪いと思ったんだよ。
それにどうせ明日会えるんだから気にしない、気にしない。
この調子なら当日は見に来れるそうだし」
大矢 「そうですね。私も琴乃に負けないようにがんばらないと」
佐伯 「お、がんばれ〜」
暗転
(大矢、独白)
大矢 「今回、台本を書いて、さらに主役級の役をやることになった琴乃だけど、
その分モチベーションも高いみたいで安心した!私も負けないようにがんばります!」
(七瀬、独白)
七瀬 「やっぱり心配だったんだよね。でも、私は私なりにがんばってるよ!
万理も頑張って、最高の劇にしようね!」
暗転
8幕 舞台練習 2回目
開幕時:佐伯
出番無:無し
客席 :高野、小野
佐伯 「緞帳下ろして!」
小野 「さて、練習の成果を見せてもらおうかな」
高野 「楽しみね」
佐伯 「みんな、準備はいい?」
渋谷 「照明、OK!」
坂巻 「音響、OKです!」
佐伯 「役者もいいね?」
役者 「はい!」
七瀬 「じゃあ、行きます、用意!」(手をたたく)
(緞帳、上がる)
佐伯 「1894年の春、ロナルド・アデア閣下が、なんともわけのわからない、
奇妙な状態で殺されるという事件が持ち上がって、ロンドン中は沸き立つ、上流社会は慌てふためく、
という騒ぎになりました。あの事件は、犯罪自体が面白いものでしたが、
何しろ冒険に満ちた私の生涯の中でも、突拍子も無い出来事にぶつかったために、
事件の面白さも、私には感じられなかったくらいです」
(声がだんだんF,Oしていく)
七瀬 「まあ、これについてはいずれ、裁判で白黒はっきりすると思う。
そして、シャーロック・ホームズ氏はまたも、複雑極まりない
ロンドンの生活がたくさん提供してくれる、
ささやかだが面白い事件の解決に思いのままふけることになるわけだ」
(緞帳が閉まる)
(小野と高野、拍手)
佐伯 「どうでした?」
小野 「良かったと思うよ!」
高野 「ちゃんと仕上がってるじゃないですか」
(全員、少しずつ舞台に集まってくる)
佐伯 「あさってはリハーサル!それまでに抑えるとこきちんと抑えときたいから、
反省点の共有忘れないように!いい?」
部員 「(お互いに意見を交換し合う)」
(佐伯、小野、高野が集まる)
小野 「なかなか部長が板についてきたじゃん」
佐伯 「やめてよ。あんたにはかなわないって」
小野 「そんなことないよ」
高野 「そうですよ佐伯さん。あなたもなかなかリーダーの才能があるんじゃないですか?」
佐伯 「そうですか?」
小野 「美波が部長頑張ってくれてるおかげで、私もリハビリに集中できるんだもん」
佐伯 「早く元気になってよ」
小野 「うん」
渋谷 「そろそろ、練習再開するよ!」
部員 「はい!」
暗転
(鯉沼、独白)
鯉沼 「部長のお墨付きを受けて、ますます乗ってきました!
このまま一気に大会まで走り抜けられるといいですね!」
(七瀬、独白)
七瀬 「一度は不安に覆われたこの劇だったけど、今ではもう不安なんて無い。
ちゃんと部員が一体になって、この劇を作ってる。・・・ふふ、やっぱり演劇って楽しい」
9幕 リハーサル
開幕時:
出番無:小野
客席 :高野
佐伯 「じゃあ、最後の幕の確認行くよ!」
坂巻 「音響、OKです!」
渋谷 「照明、OK!」
七瀬 「役者もいいですか?」
役者 「はい!」
高野 「それじゃあ行きますよ、用意!」(手をたたく)
七瀬 「最後までちゃんと気をつけてくれましたか、ハドスンさん?」
大矢 「ええ、ちゃんとあそこまで、ひざで這うようにしてまいりました」
七瀬 「それはよかった。ところで、弾がどこに行ったか、見ていましたか」
大矢 「ええ、胸像の頭をぶち抜いて、壁に当たって、ぺちゃんこになったのを拾いました。これです」
七瀬 「ありがとう。あなたに手伝ってもらって、本当に助かりました」
(大矢、一礼してはける)
七瀬 「ほら、わかるだろう?質のやわらかい弾丸だ。まったく、天才の仕業というほかないよ。
こんなのが空気銃から飛び出すなんて、誰も考えないからな。
さあ、君は昔のいすにかけてくれたまえ。いろいろ話をしたいからね
・・・ほら、ちゃんと脳天を突きぬいている。
ロンドンでも、あいつに射撃の腕でかなうやつはなかなかいないだろう。名前を聞いたことがあるかい?」
佐伯 「いや、ないな」
七瀬 「君は確か、今世紀最大の優れた頭脳の持ち主、
ジェイムズ・モリアーティ教授の名前も聞いたことがないといってたな。
・・・ちょっと、その本をとってくれないか」
佐伯 (本を渡す)
七瀬 「・・・あった。ちょっと聞いていてくれたまえ。
セバスチャン・モラン。大佐。無職。元インド派遣軍、ベンガル工兵第一連隊所属。
1840年、ロンドン生まれ。元ペルシャ公使、オーガスタス・モラン卿の子息。
イートン、およびオックスフォードの両大学出身。
ジョワキ、アフガン、チャラシアブ、シェルプール、カプールを転戦。
著書に『西部ヒマラヤの猛獣狩り』、『ジャングルの三ヶ月』がある。
現住所、コンデュイト街。所属クラブ、アングロ・インディアン、タンカヴィル、バガデル・カード・クラブ」
佐伯 「おどろいた。あいつの過去は、なかなか立派な軍人じゃないか」
七瀬 「そうなんだ。あいつも、あるところまではまじめにやっていた。
しかし、どういうわけか、あいつは悪事を働くようになった。よくないうわさが立ったわけではないが、
インドにいづらくなって、軍人を退役し、ロンドンへやってきた。
このときやつはモリアーティに見出され、一部の幹部の中でもいい顔になった」
佐伯 「そして、三年前の裁判でも・・・」
七瀬 「ああ。一味が根こそぎやられたときも、あいつはうまく身を隠して、どうしても有罪には出来なかった。
ライヘンバッハで、僕に岩を落としてよこしたのも、確かにあいつだった。
僕がフランスにいた話はしたと思うが、そのときぼくは、出来るだけ注意して新聞を読んでいた。
あいつを捕まえる機会を探っていたのだ。そこへ、ロナルド・アデア閣下殺害のニュースだ。
いよいよチャンス到来!あいつはアデアとバガデル・クラブでトランプをやった。
クラブからうちまであとをつけていき、開いた窓越しに閣下を撃った。まるで疑う余地は無い」
佐伯 「それから、どうしたんだ」
七瀬 「僕はすぐに帰ってきた。あいつは僕の突然の帰国を、自分の侵した罪のせいだと考えるだろう。
だから、きっとひどくあわてる。そして、僕を始末しようと考える。
そのためには、必ず凶器を担ぎ出してくるに違いない、と考えたのさ」
佐伯 「なるほど、そして全て君の考えたとおりになった、というわけか」
七瀬 「まあ、これについてはいずれ、裁判で白黒はっきりすると思う。
そして、シャーロック・ホームズ氏はまたも、複雑極まりない
ロンドンの生活がたくさん提供してくれる、
ささやかだが面白い事件の解決に思いのままふけることになるわけだ」
渋谷 「OK!」
佐伯 「琴乃ちゃん、すごいよ!どんどん成長してきてるよ!」
七瀬 「そうですか?」
木下 「こんなに優秀な後輩がいるとは、なかなか頼もしいぜ」
佐伯 「さあ、明日はいよいよ本番!二週間前に莉沙が怪我して、琴乃ちゃんが代役を務めることになったけど、
琴乃ちゃんはちゃんと期待に応えてくれました!みんなも、ここまで良く頑張ってきたと思います。
その成果を、しっかりと明日、発揮しましょう!今日の練習はここまで!気をつけ、礼!」
全員 「ありがとうございました!」
(七瀬、独白)
七瀬 「ついに、明日は本番です!これまでの練習の成果をしっかり発揮できれば、
きっとうまくいきます。私も全力で頑張ります!」
10幕 結末
開幕時:全員
出番無:無
暗転した状態。
スピーカーから声が響く
司会 「それでは、最優秀賞の発表です。
最優秀作品は・・・・・・『シャーロック・ホームズ〜空き家の冒険〜』!」
全員 「やったああああああ!!!!!」
(ひとしきり騒いだ後、その声がF,Oする)
高野 「おめでとう!君たちは見事、県大会に出場することが出来ました!
(いい感じのお祝いのスピーチ)」
小野 「本当におめでとう。琴乃ちゃん、とっても上手だった」
七瀬 「ありがとうございます!県大会ではホームズ役、頑張ってくださいね」
小野 「ええ」
佐伯 「なに、もう話をつけてあったの?」
七瀬 「はい。やっぱりここは、先輩に出てもらいたくて」
小野 「ありがとう、琴乃ちゃん。あなたはまさに、もう一人のホームズよ」
木下 「もう一人のホームズって、名前が出てなかったか?ええと・・・」
坂巻 「マイクロフトだよ。マイクロフト・ホームズ」
木下 「おし、わかった。今日から七瀬のあだ名はマイクロフト、略してマイクだ!」
全員 「おおおお!!」
七瀬 「ええええっ!(驚きながら、笑う)」
(笑い声と照明が、少しずつF,Oする)
(七瀬、独白)
七瀬 「こうして、私のあだ名はマイクになりました。
ちょっと変な感じがするけれど、私はこのあだ名が気に入っています。
だって、シャーロック・ホームズの兄なんて、最高じゃないですか!」
小野 「(舞台袖から)マイクーっ、手伝ってー」
七瀬 「はーい!さて、この後私たちがどこまで勝ち進めたのか、それはまた、別のお話。
でもきっと、私たちはこの大会で、とても大切な何かを学べたんじゃないかな、
と思っています。まだそれが何かは具体的にはわかりませんが、
いつかきっと役に立つ、とても大事な、宝物」
小野 「はやくーっ」
七瀬 「今行きまーす!それでは皆さん、また、機会があれば、この続きのお話をしたいと思っています」
(七瀬、走り去る。緞帳が下り、幕。) 終幕